福島第一原発事故
2014/11/20 - 09:12

「国連科学委は解体すべき」〜被曝リスクめぐりWHO元顧問

(同時通訳つき•音声はRオリジナル、L日本語 、ヘッドホンをお使いください。)

世界保健機関(WHO)の元アドバイザーで放射線生物学者のキース・ベーヴァーストック博士が20日、外国人特派員協会で記者会見を行い、国連科学委員会(UNSCEAR)2013年報告書について、科学的ではないとの考えを示した。また原子力産業との関係の強い委員が占めている同委員会は解体すべきだと厳しく断じた。

今月22日から3日間の日程で開催される市民科学者国際会議に出席するために来日したキース博士は1991~2003 年、世界保健機関(WHO)欧州地域事務所で放射線防護プログラムを指揮してきた公衆衛生分野の専門家である。今年4月に公表されたUNSCEAR2013報告書について、リスク評価を行うだけの科学的な要件を備えていなと批判。利用したデータは、原子力発電所と密接な関係にある機関である日本原子力研究機構(JAEA)のものばかりを使用しているために、被曝評価が過小となっている恐れがあることを指摘した。さらに、リスク評価を検討する委員らも、原子力産業を進めている政府から推薦された委員で占められており、利益相反が起きているとして、独立性が欠けていると述べた。

博士は、「UNSCEARの「S」は「科学(science)」の「S」であるにも関わらず、「科学的」と呼ばれるに値しない」と批判する。UNSCEARのプレスリリースには「福島での被ばくによるがんの増加は予想されない」と記載されているが、これは公衆衛生の観点から許しがたい記載であると説明。UNSCEAR報告書によると、東電の作業員は事故後1年半で、被ばく線量が10 mSvを超える人が約10,000人いると指摘した上で、それらの合計線量推計からリスク係数を用いて計算すると、約50症例のがんの過剰発生が予測されるはずだと批判した。

また事故後1年目の日本国内の公衆集団線量について、18,000人・Svと推定している事実をあげ、「この数字から予測されるのは、2,500から3,000症例のがんの過剰発生である。」と語気を強め、「これらは、「予想されない」がんではなく、「予期される」がんである。 特定の個人のがんが放射線由来であるかを同定することはできないかもしれないが、確かに発生するものだ。」と述べた。

博士は、「同報告書はタイムリー、透明性に欠け、包括的でなく、利権から独立しておらず、科学的根拠にもとづいたリスク評価の基本的要件を満たしていない」と断定。「科学的団体が自らの知見をこのような形で偽って伝えるのは許し難い。」と厳しく批判したうえで、「現在のUNSCEAR委員会は、解体されるべきである」と結論づけた。

会見資料&スピーチ全文
http://csrp.jp/posts/1898
「福島原発事故に関する「UNSCEAR2013年報告書」に対する批判的検証」
キース・ベーヴァーストック(「科学11月号」岩波書店)
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/
UNSCEAR2013年報告書(和文)
http://www.unscear.org/docs/14-04441_Factsheet_Press_J.pdf
UNSCEAR2013年報告書(英文)
http://www.unscear.org/docs/GAreports/A-68-46_e_V1385727.pdf
UNSCEAR2013年報告書(英文)詳細報告
http://www.unscear.org/docs/reports/2013/13-85418_Report_2013_Annex_A.pd…

キース・ベーヴァーストック博士
KEITH BAVERSTOCK PhD

ロンドン大学卒業後、英国ハーウェル原子力研究所で英国医学研究審議会(MRC)の放射線生物学ユニット研究員として、電離放射線が公衆衛生および労働安全衛生に与える影響に関する広範な研究を行う一方、MRC の各種委員会に所属し、電離放射線の健康影響に関する答申・提言を行う。その一環として、ラジウム夜光塗料の健康影響調査、マーシャル諸島の米核実験放射線調査、同ロンゲラップ島住民帰還計画の科学管理チーム議長、米科学アカデミーのネバダ核実験放射性ヨウ素健康影響レビュー、ウィンズケール原子炉事故調査等に従事。理化学研究所客員研究員として日本に滞在したこともある(主に高線量被ばくがDNA に与える影響を研究)。

1991~2003 年に世界保健機関(WHO)欧州地域事務所で放射線防護プログラムを指揮。その間、ヘルシンキに原子力緊急事態公衆衛生専門プロジェクト事務所を設立。また、ボンのWHO 欧州環境健康センターで放射線公衆衛生地域顧問を務めた。WHO では、とくにベラルーシにおけるチェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの増加をいち早く発見し、世界の注目を集めた。また、2001 年には国連チェルノブイリ原発事故調査団の一員としてベラルーシ、ロシア、ウクライナの被災地域の状況を分析し、その結果を国連調査報告『チェルノブイリ原発事故の人体への影響:復興への戦略』(“The human consequences of the Chernobyl accident: a strategy for recovery”、 The United Nations、 2002)として公表。

03 年、英国放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)委員に就任したが、同委員会のずさんな放射能管理を批判して05 年に辞任。その後、08 年までフィンランド・クオピオ大学環境科学部教授。現在は欧州委員会(EC)のARCH プロジェクト(EU のチェルノブイリ原発事故健康影響調査を統括)委員を務めるかたわら、東フィンランド大学クオピオ校で電離放射線の影響について講義・研究を行っている。

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