2018/05/22 - 19:27

「高プロは過労死を促進」〜遺族が官邸前に座り込み

 

22日午後1時ー。
真夏のような強い日差しのもと、首相官邸前に8人の女性が静かに座り込んだ。手には遺影、足元に花束が並んでいる。過酷な長時間労働により、夫や娘、息子たちを失った遺族の組織「全国過労死を考える家族の会」のメンバーだ。
 
代表世話人の寺西笑子さんは「高度プロフェッショナル制度は長時間労働を助長し、過労死を促進する法律。絶対通してはならない」と話す。明日23日にも強行採決との報道を受け、過労死の実情を知ってもらおうと先週、安倍総理に面談を申し入れたものの、全く返信がないため、初の座り込みに踏み切ったという。
 
高プロは過労死を促進する法律
料理人だった寺西さんの夫はバブル崩壊後に飲食店の店長に。しかし、人件費削減を強いられる中、店長だった夫の仕事は膨らみ、月間350時間年4000時間に及んだ。同時に、本社から呼び出されては厳しい叱責を受けるといったことが重なり、うつ病を発症。最終的に飛び降り自殺をした。寺西さんが許せなかったのは、会社側が責任を回避するために、長時間労働をしたのは本人の自己責任だと主張したことだ。その後、労災認定を受け、民事裁判で若いが成立したがものの、実態の解明や夫の名誉回復には11年もの歳月を要した。夫が生きているときになぜ救えなかったのかと言う自責の念がいまの行動に繋がっている。
 
「ここには座りたくなかったですね。「こういう状態で未和(みわ)を連れてきたくなかったです」そう声を震わせるのは、4年前に、NHKの記者だった娘・未和さんを過労死で亡くした母親の佐戸美恵子さん。「戦争でもないのに死ぬ。娘に先に逝かれるとは思ってもいなかった」と手にしている遺影に目を落とす。
 
「未和は県庁キャップとして横浜に勤務して、結婚も決まっていたのに、その夢も壊れた。私は二度と心から笑えることはなくなりました。」高プロ制度の対象は現在、年収や職業を限定しているが、いったん制度ができれば、派遣法のように年収も職業もしばりがなくなると警告。「なんとしてでもこれを今止めないと」と語気を強めた。
 
同じ働き方で死んでいる人がいる
都内の民間病院で働く小児科医の夫を亡くした中原のり子さんは、「高度プロフェッショナル労働制」という言葉を聞いたときに、「まさに夫の働き方そのものだ」と感じたという。夫の利郎さんは、過重労働、長時間労働を重ね、うつ病を発症して、病院の屋上の煙突から飛び降りたという。
患者に尽くして仕事一筋だった夫の最期がまさかこのような形になるとは。納得できなかったし信じることができなかったという。
 
労災認定にかかった年月は8年。勤務医における夜勤は労働時間の対象外とされるなど、労働時間が曖昧で、それが認定の障壁になったという。「高プロ制度は夫の働き方そのもの。労働時間という概念を取り払い、深夜労働も休日手当てもなく、残業手当もない。厚生労働省は「医師は「高プロ」の対象ではないと言うが、同じような働き方をしていた人間がすでに死んでいるのだから、危険な働き方だ」と批判する。
 
「労働者のためにとか、働き方改革というなら、遺族の声を聞かずして強行採決はありえない。その気持ちで今日は座っています。」家族の会も明日23日も引き続き座り込みを続けるという。

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