福島第一原発事故
2019/07/05 - 11:25

甲状腺がん報告書を一部修正へ〜 「被曝と関係認められない」見直し

東京電力福島第1原発事故以降、福島県民の健康診断のあり方を議論している「県民健康調査」検討委員会が8日、開かれた。この日、甲状腺検査に関する報告書を取りまとめる予定だったが、委員から異論が相次ぎ、7月末までに修正されることとなった。甲状腺がんの人数は218人となった。

異論が続出したのは、2014~15年度に実施した2巡目の甲状腺検査に関する「部会まとめ案」。同案では、2巡目で見つかった71例の甲状腺がんについて、通常の地域がん登録から推計される有病率に比べて「数十倍多い」と指摘。1巡目の報告書で採用していた4区分で解析したところ、線量の高いとみられる避難区域、中通り、浜通り、会津の順に甲状腺がんが多かったとしている。

しかし最終的に、この地域4区分の詳細な検討は行わず、国連科学委員会(UNSCEAR)の推計甲状腺吸収線量を利用。「線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係は認められない」と結論づけた。この報告書をめぐっては、もととなる解析データに大幅な誤りが見つかった経緯があるほか、線量ごとの解析人数や解析方法を示していないなど、問題点も指摘されていた。

甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)結果に対する部会まとめ(案)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336455.pdf

福島県内の委員ら猛反発
臨床心理士の成井香苗氏は、部会で研究デザインが大幅に変更されたのは理解できないと強く反発。福島県内を回って心理職をしている立場として地域4区分は妥当な区分だと実感しているとして、線量が不確かなのは、UNSCEARの推計も変わらないと反論。「なぜ4地区で解析できないのか」と迫った。

成井氏は過去の資料を配布しながら、事故当初、どれだけ放射線を浴びたかはわかっていないが、避難区域が高いのが実感だと強調。星北斗座長から、許可を得ずに資料配布するのは困ると注意を受けると、「ここは譲れない」と切りかえす場面もあった。


資料を配布し説明する成井委員

また福島大学の富田哲教授も「結論がどうしてこういうことになるのか腑に落ちない。」と「甲状腺癌が数十倍高かった。13市町村、中通り、浜通り、会津の順で高かったとの内容から、ある程度、原発との関係が出そうなものなのに、一切、言及がない。なぜ「被曝との関係がない」と断定できるのか。」と疑問を呈した。そして、「ある程度、可能性がある以上、それを残すような記述をするのが科学的な態度ではないか、法的な観点で読むとどうしても強引だ」と注文をつけた。

広島・長崎の専門家は絶賛
一方、微修正を求めたのは、日本学術会議の春日文子委員や甲状腺外科医の清水一雄委員ら。春日委員は「限られた人数、限られた線量の中で分析して、そもそも統計的に成り立つのかという疑問がある。その結果の中で差が出ないのは納得できる」としながらも、「UNSCEARを持ち込む必要性があったのか、4地域区分での解析にしなかったのはなぜかなど、説明が足りなかった」と指摘。所見のコメントをより詳細にすることを提案した。

逆に報告書を妥当とする意見もあった。長崎大学の高村昇教授は、新たなデータが出てきたために、デザインを変更するのはやむ得ないと主張。また広島大学の稲葉俊哉委員は「細かなところまで気を配っており、素晴らしい報告書」と絶賛した。稲葉委員はさらに、「グラフの横軸が20~30ミリと分けているが、放射線腫瘍学からすると非常に少ない。研究者が非常に注意して分析した結果、それほど高くないことがわかってきた。この低い中で分けるのはある意味無理やり。もともと線量が低いということを加えるべきではないか」と付け加えた。

様々な意見が飛び交う中、星座長は修文について、座長一任を提案。これに対し、春日委員が委員に確認を取るように意見したため、7月31日までに意見を出し、集約することが決まった。終了後の記者会見の中で富田委員は、最高裁判所の判決のように、意見が食い違った際は、少数意見をつけるべきと発言。自身が少数意見を書くことになるだろうと述べた。

このほか、来春から始まる5巡目の検査に向けて作成している「検査のお知らせ」をめぐっても意見が対立。秋頃までに改めて議論することとなった。

甲状腺がん悪性・悪性疑いは218人~事故当時4歳も
会議では検査結果も公表。今年3月までに甲状腺がんの悪性ないし悪性疑いがあると診断された人は、2018年12月末から6人増え218人となった。また、甲状腺摘出手術を受け、がんと確定した人も5人増え、173人になったと報告した。

新たに公表された悪性。悪性疑い6例の中には、3巡目に事故当時5歳と6歳、4巡目に事故当時4歳が含まれている。経過観察となり集計外となった患者では、事故当時4歳児がいることがこれまでに判明しているが、検討委員会で、事故当時4歳児が公表されたのは初めてとなる。

関連リンク
会議概要や配付資料(福島県県民健康調査課)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-35.html

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