福島第一原発事故
2020/06/12 - 11:24

「除染なき避難解除」〜朝日新聞報道をめぐり火花

福島県の帰還困難区域をめぐり、政府が「未除染」のまま避難指示解除する方針で調整しているとの新聞報道を受け、超党派の議員連盟「原発ゼロの会」は11日、担当する内閣府原子力被災者生活支援チームの担当者らから聞き取りを行った。

支援チームの細井友裕洋参事官補佐は、報道を否定する一方、地元の意向を踏まえて、「どのような避難指示解除の仕組みが適切か、検討を行っていく」と回答。従来の枠組みとは異なる「未除染」での避難指示解除も、選択肢の一つであることを示唆した。

朝日新聞2020年6月3日付け特ダネ記事

「除染なし」での「避難指示解除」否定せず
朝日新聞は6月3日、「福島原発の避難指示、未除染でも解除へ 国の責務に例外除染なし」との独自記事をスクープ。避難指示区域について、「経済産業、環境、復興の3省庁は、除染抜きでも解除できるようにすることで一致。」「最終調整に入った。」と報じた。

また、「近く原子力規制委員会に未除染で解除した場合の安全性について諮」り、その結果を受けて、「今夏にも原子力災害対策本部(本部長・安倍晋三首相)を開いて従来の解除要件を見直す方向で調整している。」と詳報した。

この報道に関して、「原発ゼロの会」事務局長の阿部知子議員が事実関係を質したところ、細井参事官補佐は、「報道により、ご不安を与えていることに恐縮に思っている」と釈明。「除染なき避難解除」と「居住断念が条件」で、政府が最終調整している事実はないと否定した。

しかし、飯館村や与党からの要望を受け、帰還困難区域の避難指示解除に向けて、具体的な検討をしている事実は認め、「地元自治体の強い意向がある場合には、住民の安全の確保を前提としつつ、どのような避難指示解除の仕組みが適切か、検討を行っている」ところと述べ、必ずしも現在の制度にこだわらず対応するとの考えを示した。

きっかけは「飯舘村の要望書」と「与党申し入れ」
「特定復興再生拠点」区域外をめぐっては昨年12月、政府は「復興・創生期間」後における東日本大震災からの復興の基本方針」を閣議決定し、「地域の実情や土地活用の動向、地方公共団体の要望」を前提に、避難指示の解除に向けた検討を進めていた。

こうした中、具体的な要望を出してきたのが飯舘村だった。今年2月26日に政府に要望書を提出。帰還困難区域の長泥地区に「復興公園」を整備し、住民が自由に訪れることができるよう避難指示を解除してほしいと求めた。また、与党も「地元自治体の強い意向」がある場合には、「現在の制度や枠組みにとらわれず」「避難指示解除を可能とする仕組みを構築する」よう要求していた。

これらを受け、「どのような避難指示解除の仕組みが適切か、検討を行っているところだが、あくまでも可能性を探っているものだと強調した。

飯舘村の要望と自民党の申し入れ文書

この説明に対し、柿沢未途議員は厳しく反論。政府与党の政策決定のあり方を考えれば、新聞報道の通りに進むということしか考えられない。何が違うのかと指摘。また阿部議員も、既存の法律を飛び越えて、原子力災害対策本部だけで決めることは、法治国家としてありえないと迫った。

来年通常国会で法改正の可能性
帰還困難区域は、2012年に避難区域の再編を行った際、年間50ミリシーベルトを超えるような高い線量が計測された地域で、民主党政権時代は避難指示を解除する予定はなかった。しかし、安倍政権になってから方針を転換。政府の原子力災害対策本部が2016年8月31日、「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」を取りまとめ、安倍首相は帰還困難区域の復興に向け、法改正や制度変更を急ぐよう指示した。

2016年8月31日に取りまとめられた「帰還困難区域の取扱いに関する考え方(案) 」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai42/siryou1.pdf

そして翌2017年6月、福島復興再生特措法を改正。帰還困難区域の一部「特定復興再生拠点区域」が除染対象となり、2022年から2023年にかけて、避難指示が解除することとなった。

担当者らは、制度の見直しには法改正が必要との考えを示していることから、今回も、この時と同様に、原子力規制委員会が安全性にお墨付きを与えた上で、原子力災害本部で「帰還困難区域」の避難指示解除に向けた方針が示され、早ければ来年の通常国会で、福島復興再生特措法や放射性物質汚染対処特措法といった関連法を改正する可能性もある。福島原発事故から10年目の節目に、「避難指示解除」の3要件が見直される可能性も否めない。

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