福島第一原発事故
2018/06/25 - 22:17

30年待たずに資金枯渇も〜福島「県民健康調査」


甲状腺検査2次検査受診者の血液試料を保存するために、福島医大が導入した自動検体システムメーカーのWEBサイト

福島県が原発事故後に実施している「県民健康調査」。30年間続ける前提で予算が組まれているが、現在の水準で支出を重ねると、当初の目標より6年早く事業費を使い果たしてしまうことがOurPlanet-TVの取材でわかった。「健康調査」に関係していない医師の報酬や高価な医療機器の購入費に充てられているためと見られる。

2035年には事業費が枯渇
「県民健康調査」事業は、福島第一原発事故による放射性物質の拡散を踏まえ、県民の被ばく線量を調べるとともに、疾病の早期発見早期治療につなげることなどを目的に、2011年に始まった。30年間継続することを前提に、資源エネルギー庁が約780億円、東京電力が250億円が支出。計1000億円を積み立てた「福島県民健康管理基金」を検査費用に充ててきた。

これまでの運用実績によると、初年度にあたる2011年度は100億、2012年は約60億、2013年度以降は毎年41億程度で推移しており、2016年度までの6年間で、基金の3分の1に当たる基金の約320億円をすでに支出している。基金の運用収入が毎年3億程度あるものの、残高は残り700万円程度となっており、現在の水準で支出を続けると、当初の計画よりも6年早い2035年には、全ての事業費を使い果たしてしまうことがわかった。


福島県が医大に委託している県民健康調査事業の支出内訳(23年度は内訳が異なるため省略)

福島県が環境省に提出している基金事業実施状況報告書(平成23年度から28年度分)

高騰する人件費
中でも目立つのが人件費の伸びだ。2012年の4億8336万円だった人件費が、13年には7億3912万円、14年には9億2651万円、15年には10億240万円、16度には10億2400万円と当初の2倍に増えている。2018年度予算はさらに増え、11億円に上る。

人件費の中で膨らんでいるのは、医師の給与だ。検査委託費から給与が支払われている医師は50人以上にのぼり、検査に直接関与していない医師の給与もここから支払われている。例えば、甲状腺検査に関して言えば、甲状腺内分泌講座の鈴木眞一教授、鈴木悟教授、鈴木聡講師、岩館学講師、水沼廣学内講師、大河内千代助教、松本佳子助教らの給与がここから支払われてきた。

しかし、医大によると、この中で、検査に直線関与しているのは岩舘学講師一人だという。医大はこれまで、2次検査以降は一般の保険診療になると強調してきたが、医師の給与は、付属病院の収益や国の補助金ではなく、検査費用から充当するという矛盾が生じている。


平成29年4月の医師の給与振り分け

福島医大の人件費は現在、約200億円で、基金から支出されている人件費はその5%に当たる。医大によると、誰の人件費をどの財源から支出するかは、国からの補助金額の決定を受けて決まるため、毎年、変動するという。県民健康調査の委託費がいわば、補助金を埋める、講座の維持の緩衝材となっている格好だ。

このほか、法人経営を担う理事や副学長などの給与もこの中から支払われており、これまで丹羽太貫教授(〜平成27年度)、 阿部正文副学長および谷川攻一副学長(〜平成28年度まで)、山下俊一教授、神谷研二教授などの給与がここから支給されてきた。また一昨年まで理事長だった菊地臣一氏の報酬もここから支給されている。これらの顔ぶれは、説明者として、検討委員会に出席している医大幹部とは必ずしも一致していない。

福島県立医大が福島県に提出している完了届(平成26年度・27年度)

血液試料のための高額機材
人件費に並び、費用が伸びているのが、甲状腺検査の支出となっている。事故2年目の平成24年度には2億9千万円だったが、こちらも年1〜2億ずつ増加。25年度には4億6千万円、26年度は6億3千万円、27年度は年8億1千万円と増え、受診率が低下しているにも関わらず、3巡目の28年度は7億4千万円で、24年度の約4倍に増えている。

だが内訳を見ると、実は検査そのものの費用は減額している。1次検査と2次検査の費用や通知などに関わる費用の合計は、26年度が4億4122万円、27年度は4億827万円、28度は3億8454円で、少しずつ減っているのである。

では、一体何が増えているのか。この3年間で目立つのは、工具器具や備品の購入費や保守費である。最も金額が大きいのは、自動検体システムで、27年度は1億6229万円、28度は1億3671万円が支出されている。

医大によると、このシステムは、2次検査を受診した患者の血液試料などを冷凍保存する機器で、導入の際の仕様書などによると、30年間で約70万本の試料をマイナス80度で保存する目的だという。甲状腺検査で血液等を調べる患者は1巡目から3巡目までで約5000人。すでに5万本を超える検体が保存されているが、それを増強するためだという。

クリックすると、仕様書全体をダウンロードできます

このほか、PACSシステム簡易サーバ(購入費は2571万円、保守費が毎年約500万円〜750万円)、画像診断用ソフトウエア等(364万円)、バーチャルスライドシステム(1480万円)、卓上低速遠心器等(1011万円)などを購入している。しかし、県の2次検査で穿刺吸引細胞診を実施する数は年々減っており、2巡目では207人、3巡目ではわずか35人にすぎない。

2次検査の直接の検査費用は年間800万円程度。多くの症例が一般の保険診療に以降し、検査結果そのものが不透明になっている中で、試料保存の委託費に年間700万円、新たな冷凍庫導入に3億円もの費用が充てられていることが判明した。

福島県民健康調査事業の決算

検査そのものの費用は減っているにも関わらず、膨らむ人件費。検査の縮小が提言され、検査費用が減少する中、組織バンク構築に多額な費用を充てている甲状腺検査。1000億もの予算を積み立てて実施されている「県民健康管理基金」が、当初の予定より6年も前に資金切れする恐れがある中、ほぼ野放しとなっている検査実態や予算の使途が議論を呼びそうだ。

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