福島第一原発事故
2017/08/30 - 11:16

存在していた!福島医科大「甲状腺がんデータベース」


  
福島県の甲状腺検査をめぐり、経過観察となった患者のデータは把握していないと説明していた福島県立医大が、小児甲状腺がんの「症例データベース」を構築し、福島医科大で実施していた手術の全症例を登録していることが、OurPlanet-TVの取材でわかった。
 
「症例データベース」の構築を行っていたのは、同大甲状腺・内分泌学講座の鈴木眞一教授ら研究グループ。研究報告書のよると、鈴木教授は県立医大で手術を施行した小児甲状腺がん患者の年齢、性別、腫瘍径、病理診断結果を一元管理するデータベースを構築し、2016年3月末までに128例が登録されていた。
 

         鈴木眞一教授が研究責任者をつとめる研究計画書の一部
 
この中には、福島県民健康調査の検討委員会に報告されていない3例の患者データも含まれており、事故当時4歳児の患者の情報も登録されていると見られる。OurPlanet-TVの取材に対し、福島医科大と鈴木教授はデータベースの存在は認めた上で、「患者さんに関する情報について、外部の方への個別の回答はしておりません。」とコメントした。
 
「手術症例」は「過剰診断」を見極める鍵
OurPlanet-TVが入手した研究計画書によると、「症例データベース」を構築する研究が同大倫理委員会に提出されたのは2013年12月1日。検討委員会に甲状腺評価部会が設置された直後にあたる。この頃、50例を上回る甲状腺がんの多発をめぐって、「過剰診断」論が浮上。翌年3月には、甲状腺評価部会の委員・渋谷健司東京大学教授が、医学雑誌「ランセット」に、福島の甲状腺がんは「スクリーニング効果」では説明がつかず、「過剰診断」を招いている恐れがあるとした上で、検査を見直すべきだとの提言を投稿。直後の「第3回甲状腺検査評価部会」では、渋谷教授と鈴木教授との間で以下のような激しいやりとりが展開された。
 

 
 渋谷教授
 数が増える可能性としては、超音波によるスクリーニングによる
 過剰診断が多いんじゃないですか。もし過剰診断があるならば、
必要もない治療をして、子どもに傷が残る。
検診をしなければ見つからなかったというケースもあると思うんですね、
 
 鈴木教授
 あのすみません。臨床データを我々が公表していないのに、
 なぜ取らなくてもいいがんだと断定できるのでしょうか。
取らなくてもいい癌を我々が手術したということはありません。
 
 渋谷教授
 それは、臨床的にどういうことですか。
 取らなくてもよかったかという判断基準というのは。
 
 鈴木教授
 先生、説明が足りませんでしたが、今回一番小さい人が5ミリ台ですので、
 みなさんそこを捉えてますけど、リンパ節転移とか、腫瘍の浸潤とか
そういうものを含めて、多くの人は 10ミリ以上で、
しかもリンパ節転移がどのくらいあるかということも含めて。
 
 渋谷教授
 結構、リンパ節転移が多いのですか。
 
 
 鈴木教授
 そういう数は、個人のデータをお話はできませんけど。
 
 
 渋谷教授
 声が出ないとか、リンパ節転移がどのくらいの割合があるのですか。
 
 
 鈴木教授
 リンパ節転移の数はここでは公表しない。
 
 
 渋谷教授
 それじゃ、分からないですよね。
 
 

 
このように、「手術症例」をきちんと説明することが、甲状腺がん多発の原因を分析するために、重視されていたが、鈴木眞一教授は、個人の臨床情報であるとの理由で、詳細の公表を避けてきた。しかし、「症例データベース」が構築され、研究に活用していたことは、こうした説明をすべて覆すものと言える。
 
実際、鈴木教授は、学会などにおいて、過去数回、県民には報告していない「手術症例」を報告してきた。昨年9月に開催された「第5回福島国際専門家会議」でも、福島県立医大で手術を行い、手術症例を詳細に報告。「過剰診断」を避けるために、厳格な診断基準を採用していると繰り返し、説明していた。
 

「第5回福島国際専門家会議」   ※手術症例報告を撮影できた唯一の映像
 
誰のための「症例データベース」「組織バンク」か
今回、入手した計画書によると、これらの「症例データベース」だけでなく、小児甲状腺がん患者のがん組織や血液、DNAなど検体試料を集積する「組織バンク」も構築していることが判明した。報告書によると、2016年3月末までに、試料の提供に同意した68人の組織が「組織バンク」に冷凍保存されているという。
 

 
30万人以上の子どもたちが参加する福島県の甲状腺検査は、国の拠出した「福島県民健康調査基金」の約1000億円をもとに実施し、甲状腺検査だけで年間8億円(2015年度実績)が支出されている。このような公的枠組みで得られた「症例データベース」や「組織バンク」を、県民や患者にさえに報告することなく、わずか数人の研究グループだけが個人的な研究に活用している実態が明らかになった。計画書には、これまで稀少だった小児甲状腺がんの検体試料が、県民健康調査によって多数得られるようになるとの趣旨の記載もあり、県民の反発を招くのは必至だ。
 
小児甲状腺がんの「症例データベース」「組織バンク」構築を含む研究計画書
 

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