東京地裁判決に対する声明~開沼氏との訴訟
OurPlanet-TVの報道が名誉毀損であるとして、社会学者の開沼博氏がOurPlanet-TVを訴えた裁判は、2025年6月6日に判決をむかえ、東京地裁は原告・開沼氏の訴えを認める判決を下しました。大寄麻代裁判長は、OurPlanet-TVの配信している記事と動画について、原告の社会的地位を低下させたとして名誉毀損の成立を認め、OurPlanet-Tに55万円の支払いを命じました。判決文はHPで公開しています。
提訴報道で名誉毀損~OurPlanet-TV敗訴
https://www.ourplanet-tv.org/50974/
OurPlanet-TVとしては、この判決は、報道機関が第三者の声を伝えることによって成り立っているという前提を理解しない、極めて問題のある判断であると考えます。この判決に対するOurPlanet-TVのの声明を掲載します。
東京地裁判決に対する声明
社会学者の開沼博東京大学准教授が、特定非営利活動法人OurPlanet-TVを名誉毀損で訴えている裁判で、東京地裁は本日6月6日、原告(開沼准教授)の訴えを認める判決を下しました。大寄麻代裁判長は、OurPlanet-TVの配信している記事と動画について、原告の社会的地位を低下させたとして名誉毀損の成立を認め、55万円の支払いを命じたものです。
しかし、この判決は、報道機関が第三者の声を伝えることによって成り立っているという前提を理解しない、極めて問題のある判断です。裁判官のメディアリテラシーの低さを露呈した不当判決と言わざるを得ません。このような判断がまかり通れば、報道機関が取材対象者の発言を引用したり、動画配信することが困難となり、報道機関の活動に大きな影響をもたらします。
例えば3月末、フジテレビの第三者委員会が、中居正広氏に対して「性暴力があった」と認定し、多くの報道機関がそれを報道しました。しかし、それをもって、報道機関が「中居氏による性暴力があった」と事実摘示したと考える人はいないでしょう。「第三者委員会が、中居氏による性暴力があったと認定した」と報じたにすぎないことは、誰の目から見ても明らかです。しかし、今回の判断に準じれば、報道機関もまた「中居氏による性暴力があった」と事実摘示したということになってしまいかねません。今回の東京地裁判決は、あまりにおかしな判断であり、報道の自由、ひいては市民の知る権利の観点から全く容認することができません。
今回の判決には、もう⼀つ大きな問題があります。裁判官が「裁判所の判決こそ全て」であり、「裁判報道(提訴報道)には意味がない」との前提に立っていることです。近年、提訴会見での発言が名誉毀損に当たるとする判決が相次ぎ、裁判報道の公益性を否定的に捉える裁判例が多数出されていますが、今回の判決も、その⼀つと位置付けられます。
フジテレビの例に戻れば、中居氏は現在、第三者委員会に対し反論しています。これらが、もし名誉毀損をめぐる裁判に進展し、中居氏が勝訴した場合、今回の判決に準じると、過去の報道に遡って、第三者委員会の会見報道が違法とされることを意味します。
しかし、多くの冤罪事件を見れば明らかなように、裁判所の事実認定は、司法府の判断として⼀定の重みを持つとはいえ、⼀つの見方にすぎません。刑事事件だけでなく民事事件においても、裁判所の認定が完全なものではなく、多くの批判があることは論を俟ちません。これらを報道し、論評するのもまた報道機関やメディアの役割です。裁判所の事実認定を所与の前提として報道することをメディアに対して求めるのは、裁判所による言論統制と⾔わざるを得ません。
権力構造の一角を占める裁判所の判断を根拠に、メディアの報道内容に介入できるとしたら、それは事後検閲と同じです。民主主義の国において、こうした誤った判断がなされることは極めて遺憾であり、今回の判決に対して控訴する所存です。東京高裁において、民主主義や基本的人権(報道の⾃由、市民の知る権利)といった大局的観点から、正しい判断がなされることを期待するとともに、報道機関の皆様におかれましても、引き続き本件訴訟にご関心をお持ちいただけますと幸いです。
2025年6月6日
特定非営利活動法人OurPlanet-TV 代表理事 白石草