福島第一原発事故
2023/08/21 - 09:59

原発事故後の野菜「遠距離でも汚染」〜農水省の独自解析

東京電力福島第一原子力発電所事故後、原発からの距離と野菜に付着した放射性物質の濃度との関係について、農水省が独自にまとめた解析資料をOurPlanet-TVが入手した。農林水産省の当時の担当者によると、農産物の検査対象をどのエリアに設定するか検討するために作成したという。解析の結果、原発から遠い地域でも一定の汚染があることが分かったため、検査の対象を、出荷制限が出されていた福島県、茨城県、栃木県、群馬県と隣接県(宮城県、山形県、新潟県、長野県、埼玉県、千葉県)。さらに、当時、暫定規制値を超えた食品を生産していた東京都でも、検査することを決めたという。

資料は、情報公開では一部不開示だった7文書のうち、審査請求により、農作物の採取をした場所を特定できる情報以外はほぼ開示された。

原発からの直線距離と検出値等の図表(図1)

OurPlanet-TVが新たに入手したは、原発事故後、農水省内に発足した技術者のチームが、野菜の汚染の傾向を把握するためにまとめたものだ。例えば、「原発からの直線距離と検出値等の図表」(図1)は、野菜に沈着した放射性ヨウ素の検出値と原発からの距離との関係をグラフ化している。

これによると、ヨウ素による汚染は必ずしも同心円状に広がっているわけではなく、原発から200キロ近い千葉市多古町のホウレンソウから3500Bq/kgの放射性ヨウ素が検出されていたほか、300キロ離れた地点でも1000Bq/kgを超えていた。グラフを作成した結果、「距離が離れていても、放射性物質が検出されていることが確認された」(当時の担当者)ため、検査の範囲を広く設定したという。

環境省が2015年に開催された「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(長瀧重信座長)」において、丹羽太貫元放射線影響研究所所長ら一部の委員が、放射性物質は同心円状に広がるなどと主張し、甲状腺検査を求める福島県外の市民の希望が抑え込んだ経緯がある。汚染が広く分布している子をを示す農水省の資料の存在が明らかになったことで、専門家会議の結論の妥当性が問われそうだ。

3月23日〜28日に計測された農産物の放射性ヨウ素とセシウムの最大値

定点観測データで減衰が明らかに

また今回は、同じ地点で採取されたホウレンソウの継続的な測定結果をグラフ化した資料も開示された。

それによると、群馬県伊勢崎市中部の露地で採取されたホウレンソウを1ヶ月にわたって計測した結果、出荷制限前の3月19日(土)では、2620Bq/kgの放射性ヨウ素を検出したが、3月24日(木)には1440Bq/kgと3分の2に減衰し、3月31日(木)660Bq/kg、4月8日(金)に210Bq/kgを計測。3月15日のプルームの影響を大きく受けた後は、半減期に伴ってヨウ素131の値がきれいに減衰していた。

元データはこちら https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000029prx.html

一方、栃木県佐野市のカキナでは、3月19日(土)には放射性ヨウ素131が2000Bq/kg。3月24日(木)には1970Bq/kgと横ばいとなり、その後、3月30日(水)には400Bq/kg、4月6日(火)には79Bq/kgと減り、その後はND(検出限界値以下)となっている。3月15日のプルームのほか、3月20日から22日にかけて関東地方を襲ったプルームの影響も受けていることがわかる。

放射線量の定点観測結果。1週間ごとにヨウ素の検出値が大きく減っていることがわかる。

農水省では2011年3月16日、技術系の職員を集めて、食品検査を行う自治体を支援するチームを発足。日本食品分析センター(多摩市)および農業環境研究所(つくば市)のゲルマニウム半導体検出器計3台を確保し、3月18日から自治体による放射能測定の支援を開始していた。

流通を続けた農業県・千葉県の野菜

新たに公開された解析は、原発事故当時、放射性ヨウ素が非常に広い範囲で、農作物を汚染していたことを裏付けるものである。とりわけ、原発から200キロ以上離れた千葉県旭市では、3月20日にデータが公表されたシュンギクから、暫定規制値を超える4300Bq/kgの放射性ヨウ素131が検出されたほか、3月22日に採取したシュンギク(2300Bq/kg)、パセリ(3100Bq/kg)、サンチュ(2800Bq/kg)、セルリー(2100Bq/kg)、チンゲンサイ(2200Bq/kg)など、非結球性葉菜類から、軒並み暫定規制値を超える放射性ヨウ素が検出されていた。

さらに、原発から250キロの距離にある東京都江戸川区の小松菜(3月23日採取)から1700Bq/kgの放射性ヨウ素131と、規制値を超える890Bq/kgの放射性セシウムが検出されている。

しかし、千葉県の農作物が出荷制限になったのは、放射性物質の検出が明らかになってから2週間後の4月4日だ。対象は、香取市と多古市のホウレンソウと、旭市のホウレンソウ、チンゲンサイ、シュンギク、サンチュ、セルリー、パセリのみ。また、東京都のコマツナは基準値を超えたが、出荷制限の対象にならなかった。

専門家「吸入のよる被曝は、急性摂取モデルが妥当」

UNSCEAR2020報告書の甲状腺吸収線量を批判している黒川眞一高速加速器研究機構名誉教授コメント。

今回のデータにより、関東地方を襲ったプルームがどのようなものだったか、改めて裏付けられたと考えられます。

関東を襲ったプルームのうち、茨城県、栃木県、千葉県、東京都などを襲ったプルームは、3月15日と3月20-21日の2つのほぼ同規模のものでしたが、群馬県西部はプルームの規模が小さく、また3月15日が主たるものであることが分かっています。今回の野菜の定点観測を見ると、群馬県伊勢崎の定点観測では、野菜へのヨウ素131の沈着は第1週が主たるものであり、第2週以後はヨウ素131の半減期によって減少していくことが読み取れます。一方、栃木県南部にある佐野市においては、3月19日と24日の沈着量がほぼ同じです。これは、3月15日と3月20-21日にほぼ同規模のプルームが襲来し、3月24日のときには、これら2つのプルームによる沈着量を観測したためです。

どちらの場合も、吸入による被曝線量を推計する場合も、プルームが襲来したのは特定の日に限定されますから、「急性摂取モデル」を採用するのが妥当だと言えます。

事故後に政府が行った1080人の甲状腺モニタリング検査は、毎日少しずつ被曝を積み重ねた「慢性摂取モデル」を前提として、0.2μSv/hを100ミリシーベルトの被曝の基準として採用しています。しかし、検査が行われた場所では、3月15-16日に襲来したプルームが、吸入による被曝量を決めており、1080人検査のモデル選択に誤りと言えます。

なお、UNSCEAR2020報告書では、出荷制限が迅速だったなどとして、経口摂取による甲状腺被曝は、福島の1歳児で平均0〜1ミリシーベルトという低い値となっていますが、当時、出荷制限されていなかった野菜にも、高い放射性ヨウ素が付着していたことはこの記事で示されたデータから明白であり、UNSCEAR2020報告書の推計値は、実態に則していない可能性が高いと思われます。

なお今回、開示された資料を見ると、野菜に付着した放射性物質の濃度は、放射性セシウムに比べ、放射性ヨウ素の沈着量は、福島第一原発から300 kmも離れた場所でも高いことがわかります。これは、放射性セシウムが粒子状であるのに対し、放射性であるヨウ素131には、粒子状とガス状の2種類があり、ガス状のヨウ素は沈着速度が遅いため、なかなか降下沈着せず、遠くまで届いていたことを裏付けています。

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