被爆80年を迎えるにあたり、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)と原水爆禁止日本協議会(日本原水協)、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の3者が23日、核兵器廃絶に向けた共同アピールを公表した。原水爆問題に取り組む3団体が共同でアピールを公表するのは初めてとなる。
共同アピールでは、核兵器の非人道性を日本と世界に訴えていくことが何より重要だとして、被爆の実相を広げることを国内外で繰り広げることを呼びかけている。日本被団協の田中熙巳代表委員が記者会見で、今なお、被爆経験を語れない被爆者もいるとして、この呼びかけがそうした被爆者を動かしていければと力を込めた。
原水爆禁止運動が始まったのは1954年、米国のビキニ水爆実験で静岡県焼津市の漁船・第五福竜丸が被曝した事件にさかのぼる。ビキニ事件を契機に、全国で原水爆禁止を求める署名活動が広がり、翌年8月には広島市で第1回原水爆禁止世界大会が開かれた。当時は一つの運動だったが、ソ連の核実験を巡る意見の対立から、63年の第9回大会で社会党系と共産党系に分裂。77以降、再び統一大会を開いたが、88年以降、再び分裂し、以来37年間、原水禁と原水協はそれぞれ別に、核兵器廃絶を目指す原水爆禁止世界大会を毎年8月に開催してきた。
今回の共同アピールは、被爆80年という節目に加え、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナ・ガザへの無差別攻撃をはじめ、核兵器を巡る厳しい国際情勢を背景に、それぞれの立場を超えて連携を強める必要性を意識したとみられる。記者会見で、日本被団協の浜住治郎事務局長は言葉を詰まらせながら「被爆者は、もう後はないんです。85歳以上ですよね。自分たちができることは何ができるのか。今やっていかなければ、何をやるのかという時期に、こういうことをアピールをしてくださったことの意味はとても大きい」と涙をうかべた。
参議院選挙中、核武装などを訴える候補者がいたことについて、記者から問われると、日本原水協の安井和正事務局長は、「核武装という公然と唱えるという政治勢力が出てきたのは大変危険なこと。被爆者の皆さんを前にして本当に言えるのか。」と批判。「1発でも原爆の使われれば一体何が起きるのか」「被爆者の皆さんが命を懸けて訴え続けてきた『核兵器と人類共存できない』という広島長崎の実相を、伝える緊急性を示した」との見方を示した。
また、日本被団協の田中煕巳さんは、論外だとした上で、「日本の政治家が核を使うことを前提にした議論をするというのは、本当に恥ずかしい」「全ての政治家が核を武器として使うことを前提とするあらゆる考え方を全てなくすべきだ」と訴えた。
共同アピールの全文は以下の通り。
爆80年を迎えるにあたってヒロシマ・ナガサキを受け継ぎ、広げる国民的なとりくみをよびかけます
1945年8 月6日広島・8月9日長崎。アメリカが人類史上初めて投下した原子爆弾は、一瞬にして多くの尊い命を奪い、生活、文化、環境を含めたすべてを破壊しつくしました。そして、今日まで様々な被害に苦しむ被爆者を生み出しました。このような惨劇を世界のいかなる地にもくりかえさせぬ ために、そして、核兵器廃絶を実現するために、私たちは被爆 80 年にあたって、ヒロシマ・ナがサ キの実相を受け継ぎ、広げる国民的なとりくみを訴えます。
2024年、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しました。凄惨な被爆の実相を、世界各地で訴え続け、戦争での核兵器使用を阻む最も大きな力となってきたことが 評価されたものです。一方今日、核兵器使用の危険と「核抑止」への依存が強まるなど、「瀬戸際」とも言われる危機的な状況にあります。
ウクライナ侵攻に際してロシアの核兵器使用の威嚇、パレスチナ・がザ地区へのイスラエルのジノサイド、さらに、イスラエルとアメリカによるイランの核関連施設(ウラン濃縮工場)への先制攻撃など、核保有国による国連憲章を踏みにじる、許しがたい蛮行が行われています。核兵器不拡散条約(NPT )体制による核軍縮は遅々として進まず、核兵器 5 大国の責任はいよいよ重大です。
しかし、原水爆禁止を求める被爆者を先頭とする市民運動と国際社会の大きなうねりは、核兵器禁止条約(TPNW)を生み出しました。これは、核兵器の非人道性を訴えてきた被録者や核実験被 害者をはじめ世界の人びとが地道に積み重ねてきた成果です。同時にそれは今日、激動の時代の「希望の光」となっています。この条約を力に、危機を打開し、「核兵器のない世界」へと前進しなければなりません。アメリカやロシアをはじめ核兵器を持つ9 カ国は、TPNWの発効に力を尽くしたすべての市民と国々の声に真摯に向き合い、核兵器廃絶を決断すべきです。
唯一の戦争被爆国である日本政府はいまだTPNWに署名・批准しようとはしません。核保有国と非核保有国の「橋渡し」を担うとしていますが、 TPNWに参加しない日本への国際社会の信頼は低く 、実効性のある責任を果たすこととは程遠い状況にあります。アメリカの「核の傘」から脱却し 、日 本はすみやかに核兵器禁止条約に署名・批准すべきです。
原爆被害は戦争をひきおこした日本政府が償わなければなりません。しかし、政府は放射線被害に限定した対策だけに終始し、何十万人という死者への補償を拒んできました。被爆者が国の償いを求めるのは、戦争と核兵器使用の過ちを繰り返さないという決意に立ったものです。国家補償の 実現は、被爆者のみならず、すべての戦争被害者、そして日本国民の課題でもあります。
ビキニ水爆被災を契機に原水爆禁止運動が広がってから71年。来年は日本被団協結成70周年です。被爆者が世界の注目をあつめる一方、核使用の危機が高まる今日、日本の運動の役割はますます大きくなっています。その責任をはたすためにも、思想、条、あらゆる立場の違いをこえて、被爆の実相を受け継ぎ、核兵器の非人道性を、日本と世界で訴えていくことが、なによりも重要と なっています。それは被爆者のみならず、今と未来に生きる者の責務です。地域、学園、職場で、 様々な市民の運動、分野や階層で、被爆の実相を広げる行動を全国でくりひろげることをよびかけます。世界の「ヒバクシャ」とも連帯して、私たちはその先頭に立ちます。
2025 年7 月23 日
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)
原水爆禁止日本協議会(日本原水協)
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)