福島県の「県民健康調査」検討委員会の第57回会合が11月20日、福島市内で開催され、双葉郡医師会副会長の重富秀一氏が、前期に引き続き座長に就任した。また副座長には、甲状腺の専門医である東北大学分子内分泌学分野の菅原明教授が就任した。
検討委員会は、今年7月31日に委員の任期が終わり、8月1日から新たな任期となった。会議冒頭で、座長の指名が行われ、前期も座長を務めたJA福島厚生連双葉厚生病院の重富秀一院長が選ばれると、重富氏は、「これから2年間ということで、とっても気が重くてですね。ここに座るのはとても憂鬱なんですけど、また座長をさせていただきます。」と挨拶。今も、福島県内では健康影響をめぐる意見の対立が存在し、複雑な状況にあるとの考えを覗かせた。
甲状腺がん悪性ないし悪性疑いは407人
甲状腺検査がスタートしてから14年。今回は6回目(本格検査5回目)の検査結果のみが公表された。それによると、穿刺吸引細胞診で新たに悪性ないし悪性疑いと診断された患者が4例増え、361人となった。2019年までにがん登録で把握された集計外の患者47人と併せると、悪性ないし悪性疑いは、良性と診断された一人を除き407人となった。また手術を受けて、がんと確定診断を受けた患者は1人増えて、302人となった。この14年間で手術を受けて、がんと診断された患者の合計は、公表されているだけで349人に上る。

甲状腺検査のアンケート実施へ
この日は、福島県から、甲状腺検査に関するアンケート実施について提案があった。検査のメリットとデメリットに関する意識について、福島県が調査をするのは2回目。来年2027年夏に実施し、2028年2月に結果を公表したいとの説明があった。また20歳以上の世代の回答率が低いため、アンケートの送付人数を増やすことが提案された。
これに対し、従来から甲状腺検査の中止を求めてきた東北大学の室月淳教授が強く反発。「甲状腺検査の受診に、メリットがほとんどないということが明らかになっている。これは、県も医大の方も同意されると思います。」と述べた上で、国際的にも、甲状腺スクリーニング検査は、過剰診断という害が生じる可能性があるため、IARC でもUNSCEARでも推奨していないと指摘。「アンケート結果が出るまでは、一旦、検査は休止して評価するのが正しい在り方ではないか。」と強調した。
これに対し、日本甲状腺学会推薦で委員に就任している菅原明教授は、「過剰診断だと世界的に認識されているというのは非常に偏った考え方だと思う。」と反論。甲状腺学会でも、「過剰診療」というのは一部の意見で、そうではないというのが大多数の考え方だと指摘した。また、長崎大学の高村昇教授も、IARCの解釈について指摘。IARCは、高い線量のグループに注意深くフォローすべきとしている点と、「今後の原子力災害について適用するものであって、すでに起きた災害にはIARC のガイドラインは当てはめるべきではないとの記載もある」などと修正した。
◎検討委員会の座長の変遷◎
2011年5月〜2013年2月 山下俊一長崎大学教授(秘密会報道を受け退任)
2013年6月〜2015年7月 星北斗福島県医師会理事
2015年8月〜2017年7月 星北斗福島県医師会理事
2017年8月〜2019年7月 星北斗福島県医師会理事
2019年8月〜2021年12月 星北斗福島県医師会理事
2021年8月〜2021年12月 星北斗福島県医師会理事(参議院選挙出馬による退任)
2022年5月〜2023年7月 高村昇長崎大学教授
2023年8月〜2025年7月 重富秀一双葉郡医師会副会長
2025年8月〜2027年7月 重富秀一双葉郡医師会副会長