2023/10/16 - 17:31

リニアは本当に安全か? 振り回される住民たち~

今年7月18日ー。
リニア中央新幹線の工事認可取り消しを求めた裁判の判決が東京地裁で言い渡された。東京地方裁判所は、「リニアは南アルプスなどの貴重な自然環境を破壊し、南海トラフ地震では多数の死傷者を出す危険が極めて大きい」という住民の訴えを退け、国やJR東海の主張を認めた。

原告団はこれに対し、「住民への安全性の問題を、裁判所は全く汲み取らなかった」と反発。原告のひとりで神奈川県相模原市に住む浅賀きみ江さんも「納得いかない」と批判した。

リニアは本当に安全なのか?リニア沿線に住む住民を取材した。

神奈川県駅建設現場(撮影:井澤宏明)

横浜線(JR東日本)と京王線が交わる橋本駅は1日15万人以上が利用する駅だ。このすぐ向かいに、リニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)が建設されている。それに伴い、建設予定地となる高校や住民らは立ち退きを余儀なくされた。

「リニア建設によって街の風景が一変した」

戸惑いの表情を浮かべながら話すのは、40年近くこの街に住む浅賀きみ江さんだ。浅賀さんは、子どもが小さい頃にこの街に移り住み、右も左もわからない状態で困っていたところ、神奈川県立相原高等学校と出会った。この高校は、畜産や食品製造、造園などを学ぶユニークな専門高校。生徒たちが生産した牛乳や卵、肉、野菜などを地域住民に販売するなど、市民にとって交流の場であり、浅賀さんにとっても大切な場所だったという。当時、浅賀さんは子どもを連れてこの高校をよく訪れた。生徒らはとてもフレンドリーだったといい、ポニーを育てている様子を見ていたら「”乗ってみる?”と声をかけてくれた」と懐かしむ。しかし、リニア建設によって、高校は郊外に移転、校舎は取り壊された。浅賀さんは「いまはもう見る影も無い」と寂しそうに話した。

移転前の神奈川県立相原高等学校実習風景(撮影:井澤宏明)

地下トンネル工事は安全か?

品川から名古屋までの286kmを最短40分で結ぶ計画のリニア中央新幹線。しかし課題は山積みだ。静岡県の川勝平太知事は、リニアのトンネル掘削により大井川の水量が大幅に減少し、流域62万人の生活に影響が出ることや、ユネスコのエコパークにも指定されている南アルプスの自然環境が破壊されることをを懸念している。また、大井川上流の視察を行い、残土置き場の安全性についてJR東海に説明を求めた。JR東海は「平坦な場所に置くつもり」と説明すると、知事は「なぜここが平坦か。それは過去に土砂災害が起きたから」「つまり、土砂災害が起きるかもしれない場所に残土を置いて大丈夫なのか」と指摘する。県民の納得のいく説明がJR東海から尽くされない限り、知事は静岡県内のリニア工事を認めない考えだ。

大井川上流の視察(撮影:井澤宏明)

リニア建設をめぐる工事では大きな事故も起きている。岐阜県中津川市では2年前、トンネルの崩落事故で作業員1人が死亡、1人が重傷を負う事故が発生。JR東海は記者会見を開いたが、フリージャーナリストを排除。その後も長野県でけが人を出す事故を繰り返したが、公表しなかった。

都市部でもトラブルが起きている。リニアの起点となる品川の工事では、シールドマシンのトラブルにより、わずか50mで工事を中断。再開におよそ1年余りかかり、現在まで124mしか進んでいない。

大深度地下使用法

首都圏や名古屋周辺など都市部のリニア工事では、「大深度地下使用法」により国土交通大臣から使用認可を受けている。これは、原則深さ40m以上の地下を掘る場合、住宅の真下でも住民の承諾を得る必要がないというものだ。

ところが、この法律の認可を受けた「東京外かく環状道路」の工事で、3年前に東京都調布市の住宅街で陥没事故が起きている。

東京都調布市 陥没事故の様子(住民撮影)

「犠牲を強いてまでやるべき事業なのか」

浅賀さんは「この街に住んでいる人がリスクを背負っていくわけですからね」と指摘する。浅賀さん宅は神奈川県駅から近く、発着のためにリニアが地上に迫る関係で地下トンネルが深さ13m〜16mと非常に浅い。これから起きるかもしれない大地震、集中豪雨により、複合的な災害も考えられる。浅賀さんは今も不安を抱えたまま生活している。「トンネルの上に住むというのはとても不安です」と話した。

(撮影:井澤宏明)

共同制作者

井澤宏明(ジャーナリスト)
1967年生まれ。読売新聞記者を経て、2012年からフリー。新聞記者時代は、岩手県、北海道で自然保護問題などを取材。現在は、リニア中央新幹線建設が沿線住民の生活、自然環境にもたらす影響を継続取材。2019年に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」の余波、名古屋城天守閣「木造復元」問題などを追いかけている。共著に『「表現の不自由展」で何があったのか』(緑風出版)、『リニアはなぜ失敗したか』(緑風出版)。岐阜県在住。

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