小児甲状腺がん
2025/06/26 - 14:11

東電側「潜在がん」定義を変更か〜甲状腺外科の意見書を受け

自分が甲状腺がんになったのは、福島第一原発事故で放出した放射性物質に被曝したことが原因だとして、事故当時子どもだった福島県出身の男女が東京電力を訴えている裁判の第14回口頭弁論が6月26日、東京地方裁判所で開かれた。原告弁護団によると、口頭弁論前に開かれた進行協議で、裁判所は来年春までに書面での弁論を終え、来年秋頃から証人尋問に入る考えを示したという。

UNSCEAR日本代表・明石氏が黒川意見書に反論

今回、被告の東京電力側からは、新たに2人から専門家意見書が提出された。一人は、2017年から2019年まで「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の日本代表だった明石真言氏。もう一人は、日本内分泌外科学会理事長で日本医科大学内分泌外科の杉谷巌氏だ。

明石氏の意見書は、原告が提出してきたUNSCEAR批判に反論したものだ。原告側はこれまで、黒川眞一高エネルギー研究開発機構名誉教授の意見書を6本提出し、被告が主張の根拠としているUNSCEAR2020/2021報告書の被ばく線量には大幅な過小評価があると批判してきたが、明石氏は、これらに反論。UNSCEAR報告書は中立的かつ科学的に編集されたものであると強調した上で、黒川氏が批判した「scaling法」の正当性を主張。また黒川氏が推計した福島市の1歳児の被ばく線量や、すぎのこ園の子どもの被曝線量の推計値は過大評価であるなどと批判した。

杉谷巌氏「手術は合理的」

また、甲状腺外科の専門医である杉谷氏は、福島県の甲状腺検査で見つかった甲状腺がんについて、放射線起因性を否定。「原発事故の放射線被ばくの影態によってがんの「発生」数が増加したのではなく、大規模スクリーニング検査の実施によって「発見」数が増加したものであるというのが、専門医の間では確立した評価」と述べた。

その上で、大規模スクーニング検査が実施される前に発見されていなかった甲状腺がん(潜在がん)の中にも、発見されれば、ガイドライン上の手術対象となり得るようながんが含まれているのは容易に想定できると指摘。「どんなにリスクが低く、その大半が生涯悪さをしない乳顕がんであっても、病狸学上は悪性腫瘍であることに変わりはなく、それが将米的に悪性度の高い未分化がんに転化しない保証はない」とした上で、「そうである以上、検診によってひとたび乳頭がんが発見されれば、リスクが無視できるほどに小さい場合でない限り、医師として将来の禍根を断つべく手術を選択することも合理性を有する」との見解を示した。

「潜在がん」定義を変更?〜被告・東電側

被告・東電側はこれまで、「潜在がん」について、「生涯にわたって健康には影響せず無症状で、臨床的には発見できず、病理組織診断(死亡後の解剖(剖検)を含む)によってはじめて発見されるもの」であり、「生涯にわたり健康に全く影響しない」と主張してきた。しかし、この杉谷意見書に基づき、今回の準備書面ではこれを一転。「潜在がん」について、「生涯にわたって症状が現れず、甲状腺がんが発見されないままで生涯を終えたかもしれないがん」と説明し、「潜在がんについて臨床的に治療が不要であるなどとは述べていない」とした。

これに対し、原告の井戸弁護団長は期日の記者会見で、「生涯にわたって症状が現れず、甲状腺がんが発見されないままで生涯を終えたかもしれないがん」という説明は、「甲状腺がんが発見されないままで生涯を終えなかったがん」すなわち「死亡までの間に発見されたがん」も含むことになり、全てのがんを指していることと変わらないと批判。

争点整理に入っているにも関わらず、「潜在がん」の定義を変えられては争点整理ができないとして、東電側に、「潜在がん」の定義を明らかにするよう求め、裁判所もそれに理解を示したという。

腫瘍増大スピードを示す〜原告側

福島で見つかっているのは果たして「潜在がん」なのかが大きな争点となる中、原告側は今回、2巡目以降に穿刺吸引細胞診で「悪性」ないし「悪性疑い」と診断された子どもの前回検査結果を詳細に示す準備書面を裁判所に提出した。井戸弁護団長が法廷でプレゼンし、福島で見つかっている甲状腺がんの多くが、年間に3ミリから5ミリ程度、腫瘍が増大していると指摘。被告の主張する「潜在がん」であれば、1回のスクリーニングで根こそぎ結節が検出されるはずだとした上で、前回の検査が精度が低くてがんを見逃したのか、それとも、新たに増大したがんが1センチ前後でピタッと成長を止めるのかと問いただした。

原告8の併合へ〜原告団は7人に

口頭弁論前の進行協議では、6月2日に追加提訴した原告を併合するかも話し合われ、併合される方向だという。原告側が、新たな原告の意見陳述を求めたところ、裁判所が8月8日までに結論を出すことになった。次回の期日は9月17日(水)14時15分から行われる。

https://www.youtube.com/lwatch?v=ovmuA9yvms

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