小児甲状腺がん
2025/07/04 - 17:00

被曝と甲状腺がん「関連は認められず」〜福島・部会まとめ

原発事故後、18歳以下の福島県民を対象に実施されている甲状腺検査をめぐり、「県民健康調査」検討委員会の「甲状腺検査評価部会」が4日、福島市内で開かれ、「被曝線量と甲状腺がんとの関連は認められない」とする5巡目までのまとめ案に合意した。鈴木部会長は、4巡目までに比べ、多角的・重層的な解析が行えたと胸を張る一方、記者会見で、解析の根拠となっている被曝線量について問われると、委員は線量については誰も知らないと回答する場面もあった。結果は25日の「県民健康調査」検討委員会に報告される。

今回の報告書は、5巡目検査までの結果を解析した調査に基づいたもの。部会が中間報告書を出すのは、先行検査を解析した2015年、2巡目検査結果を解析した2019年、4巡目検査までを解析した2023年に次いで4回目となる。甲状腺検査の解析をめぐっては、当初の解析手法から二転三転してきた。

今回は、2巡目から5巡目で甲状腺がんが見つかった207人を対象に、UNSCEAR2020年報告書の推計甲状腺吸収線量に基づいて4つのグループに分類し、甲状腺がんの割合に違いがあるかを比較した解析のほか、がん登録症例を加えたコホート内症例対照研究とカプランマイヤー法と呼ばれる解析手法など3種類の解析を実施。コホート内症例対象研究では、避難区域に限定した解析以外のすべてで、線量の増加に応じて甲状腺がんの発見率が上昇する「線量・効果関係」が見られ、中でも、浜通りに限定した解析では、10ミリシーベルト以上で有意差が認められた。

しかし、部会では、避難区域に限定した解析で、線量・効果関係が見られなかったとして、「一貫した関係は認められなかった」と評価。「先行検査から検査5回目までにおいて、甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連があるとは認められなかった。」と結論づけた。

市町村別の線量分布は把握せず

「部会まとめ」の解析をめぐっては、解析に使っている甲状腺被曝線量が明らかにされておらず、関西の科学者の団体などからデータを明らかにするよう要望書が提出されてきた。元となっている日本原子力開発機構の寺田宏明ら研究グループが推計したWSPEEDIのデータは、中通りの線量が過小評価されているのではないかと問われると、鈴木元部会長は、「吸入被ばく線量は補正していない」と回答。「中通りは、基本的に外部被ばく線量と水道の線量が高い地域がその数値になっている。「1080人調査の中に、一人福島市の人がいて非常に低かった。1ミリシーベルトというイメージ。」と述べた。

記者から、具体的な数値について問われれると、鈴木部会長は、「部会の委員はその数値に誰もアクセスできない。市町村別でどういう分布しているかは、私たちは見ることはていない。」と回答。さらに妥当性を聞かれると、「妥当性は、結局、シミュレーションのプログラムと実測値があるところの比較で決めていっている話なので、そこについては、今まで論文を書いてきた通りです」と答えるにとどまった。

「過剰診断」臨床医は否定

記者会見では、検査で見つかっているがんより、がん登録で見つかったがんの方が進展度が低かったことをめぐり、「過剰診断」論は否定されるのではないか質問があった。これに対し、甲状腺分野で臨床に携わっている帝京大学ちば総合医療センター 小児科学の南谷幹夫教授は、「今の手術症例を見ると、過剰診断はあったとか感じていない。」と回答。また、同じく臨床医の東京医科大学呼吸器・甲状腺外科学分野の筒井英光教授も「これだけのデータではわからない、無用な手術をやっていたとは思わない」とした。

さらに、会津中央病院の旭修二内分泌乳腺外科部長は「私のところに回ってきた数少ない症例はリンパ節も両側で腫れており、適切に手術を受けていた。」と述べたが、「過剰診断に関して判断する材料を持ち合わせていないので、なんとも言えない」と言葉を濁した。また、甲状腺の病理学が専門の山梨大学の近藤哲夫教授も「病理学としては過剰の治療があったとは言えない。これが臨床的に過剰な手術がされたのかは判断できない」と述べた。

一方、国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所の片野田耕太氏は「疫学的には、これまで臨床過剰診断は個々の症例について判断できない。疫学的には、自然に発生する罹患率より高く、放射線の影響は考えにくいと考えると、一定程度、過剰診断があると考えざるを得ない」と回答。鈴木部会長は、「今回の部会のまとめにおいて、その結論は現時点でできない」「20年、30年見て、全国と比較しないとできない」と述べた。

「部会まとめ」は25日に開催される上部の「県民健康調査」検討委員会に報告される予定だ。


資料:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-b25.ht

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