福島県の「県民健康調査」検討委員会の第56回会合が7月25日、福島市内で開催され、穿刺吸引細胞診で新たに悪性ないし悪性疑いと診断された患者が4例増え、357人となった。2019年までにがん登録で把握された集計外の患者47人と併せると、悪性ないし悪性疑いは404人となった。また手術を受けて、がんと確定診断を受けた患者は3人増えて、301人となった。この結果、この14年間で手術を受けた患者の合計は、少なくとも348人に上る。

今回、新たに公表されたのは、6巡目と25歳の節目検診と30歳の節目検診の今年3月末までの結果。6巡目は、211,929人の対象者のうち、3月末までに32.50%に当たる68,921人が受診し、穿刺吸引細胞診で悪性ないし悪性疑いと診断されたのは、前回から1人増えて15人となった。15人のうち、前回の検査結果でA1判定だった人は2人、A2判定だったのは6人、B判定だったのは3人、未受診は4人だった。A2判定だった6人の内訳は、嚢胞のみ認められた人が5人、結節と嚢胞両方が認められた人が1人だった。この15人のうち、手術を受けた人は前回より2人増えて12人となり、この全員が、術後の確定診断で乳頭がんと診断された。
次に25歳の節目検査で、3月末までに受診したのは159,956人の8.1%に当たる13,840人で、前回より1人多い26人が、穿刺吸引細胞診で悪性ないし悪性疑いと診断され。26人の前回結果は、A1判定が1人、A2判定が5人、B判定が5人、未受診が15人だった。A2判定5人の内訳は、嚢胞のみ認められた人が3人、結節が認められた人が2人だった。この26人のうち、手術を受けた人は前回より1人増えて19人となり、この全員が、確定診断で乳頭がんと診断された。
さらに30歳の節目検査では、66,542人のうち、3月末までに6.3%に当たる4,193人が検査を受け、穿刺吸引細胞診の結果、26人が悪性ないし悪性疑いと診断された。26人の前回結果は、A1判定が1人、A2判定が5人、B判定が5人、未受診が15人だった。A2判定5人の内訳は、嚢胞のみ認められた人が3人、結節が認められた人が2人だった。また、このうち、手術を受けた人は前回より1人増えて19人となり、この全員が、確定診断で乳頭がんと診断された。

2011年10月にスタートした1巡目検査では30万人が受診し、受診率が8割を超えていた甲状腺検査。14年を経過し、6巡目の受診者数は68,921人で、対象者の3割にとどまっている。受診率は低下する一方で、甲状腺がんの検出率は減少していない。
サポート事業で把握可能な集計外は71人か?
今回の検討委員会では、甲状腺検査サポート事業の実施状況も報告された。甲状腺検査サポート事業は、甲状腺検査でがんの疑いが生じた県民に対して、経済的な支援を行うとともに、保険診療を受けている甲状腺がん等の患者の診療情報を得ることなどを目的に実施されている。
報告によると、2015年の事業開始から2024年度までの間に、保険診療にかかる医療費が支払われたのは507人、のべ1057件で、そのうち234人(243件)が手術に対する支給だった。また、234人のうち、205件が甲状腺がん手術に対する支給だったという。

甲状腺検査サポート事業の医療費を受給できるのは、保険診療で支払いが生じる県民に限られる。そこで、医療費が無償化されている18歳以下で甲状腺がんの悪性と診断された人数を数えると、1巡目が77人、2巡目が45人、3巡目が27人、4巡目が28人、5巡目が36人、6巡目が10人で、合計223人に上る。この人数と、18歳以上でサポート事業で医療費が支給された205人を合わせると、428人となる。
これは、現在、県民健康調査とがん登録で把握されている甲状腺がんの人数404人より24人多い。がん登録で把握されているのは2019年末までの患者に限られるが、今回、公表されたサポート事業の結果により、少なくともさらに24人の患者がいることが判明した。県民健康調査で公表されていない患者は、71人にのぼる。
4回目の「部会まとめ」めぐり激論
委員の任期が切れる7月末を控え、甲状腺検査評価部会の鈴木元部会長から、4回目の「部会まとめ」について報告があった。「甲状腺がんと放射線被ばくの間に関係があるとは認められなかった」との結論を受け、東北大学医学部の室月淳臨床教授は、検査が原因で過剰診断が起きていると考えるべきだと声を荒げ、「部会まとめ」について無責任だと訴えた。これに対し、福島県立医科大放射線医学県民健康調査管理センターの安村誠司センター長は、検査が開始された当初から、「過剰診断」を招かないように、検査方法を決定し、慎重に対応してきたと反論。また、鈴木部会長は、過剰診断かどうかは個々の症例をフォローし、術後の所見を公開し、議論する必要があるとの見方を示した。
さらに、甲状腺外科の専門医である東名古屋病院の今井常夫名誉院長は、福島医大の基準は厳格であるのに比べ、がん登録で把握されている症例の方が、がんの進展していないと指摘。県民は、(手術適応に厳格な)福島医大に相談する体制を構築した方が良いのではないかなどと述べた。
資料:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-56.html