法務省が今年5月に発表した「不法滞在者ゼロプラン」による強制送還の方針転換が、司法手続き中の外国人に深刻な影響を及ぼしている。在留特別許可を求めて裁判中のネパール人男性の妻が29日、都内で緊急の記者会見を開き、東京出入国在留管理局(東京入管)が夫の強制送還の手続きを強引に進めているとして、切実な思いを訴えた。
入管が強制送還の手続きを進めているのは、40代後半のネパール人男性。ネパール料理のコックとして技能資格で来日し、長年にわたり日本で働いてきた。日本人女性と結婚し、家庭を築いていたが、2013年秋に入管庁に出頭した際、過去に友人の頼みで一時的に手伝った仕事が「資格外活動」に当たるとされ、在留資格を取り消された。その後、1年半にわたり入管施設に収容。2015年4月からは仮放免の状態が続いていた。
男性は今年5月、在留特別許可を求めて東京地裁に裁判を提起した。すると東京入管は6月10日、「令和7年7月第5週」に強制送還を行うとする「送還予定時期通知書」を男性に通知した。男性は7月23日に強制送還の執行停止を求めて東京地裁に申し立てを行ったが、翌24日に却下。東京高裁に即時抗告したものの、28日に棄却され、翌29日には人格権に基づき、強制送還の執行停止を求める仮処分を申し立てた。
男性の代理人・指宿昭一弁護士は、「男性はパニック障害を患っており、航空機等での送還には生命・身体の危険がある」と指摘。「配偶者である妻との安定した平穏な生活を奪い、引き裂くことはすべきでない」と訴えた。また男性の妻は「どうしていいのかわからない状態を毎日繰り返しています」「本当に助けてください」と切実な思いを語った。
「不法滞在者ゼロプラン」で方針転換
指宿弁護士は今回の入管の対応について、法務省が掲げる「不法滞在者ゼロプラン」に伴う方針変更がある指摘する。法務省は今年5月23日、「日本国内の不法滞在者数を大幅に削減し、国民の安心・安全を高めるための包括的政策」として、2030年末までに不法滞在者を半減する目標を掲げた。この計画は「不法滞在者ゼロプラン」として、「入国管理の強化」「難民審査の厳格化」「出国・送還の円滑化」という3段階からなり、発表以降、入管問題に取り組む団体や弁護士らの間で、「強引な強制送還手続きがこれから行われるのではないか」という懸念が広がっていた。
指宿弁護士によると、「これまで約20年間、裁判中の外国人については強制送還をしないという運用が行われてきたが、「不法滞在者ゼロプラン」が公表された時期から、裁判中の外国人でも強制送還される例が出てきた」という。難民申請中や裁判中の外国人で幅広く、家族単位の場合も含み「多くの人が強制送還」されているとの情報もある。指宿弁護士は、「相当深刻な、地獄絵のような状況が起こっている」として、法務省の方針を批判した。
会見直後に「強制送還中止」の連絡
会見直後、東京入管から指宿弁護士に電話があり、男性のこの日の強制送還を「中止する」との連絡が入った。理由は明かされなかったという。男性の妻は「少し安心した」と話すが、東京入管は本人の出頭を求めているため、「出頭すれば収容され、依然、送還される可能性がある」と指宿弁護士は警戒する。