福島第一原発事故
2025/10/10 - 12:05

【独自】屋内の放射性ヨウ素、屋外と同じ〜福島原発事後の未公開データ

福島県は2011年の福島第一原発事故が起きた直後、福島市内の一般家屋で、屋内と屋外の放射性核種を同時刻に計測するダストサンプリング(大気中に浮遊している塵(ダスト)の採取)を実施していたことが、OurPlanet-TVの取材で分かった。屋内と屋外で計4回計測した結果、大気中に含まれる放射性ヨウ素131は、屋外と屋内に差はなかった。一般家屋の場合、屋内にいても、屋外と同じ濃度のヨウ素を吸い込んでいた可能性がある。

今回、OurPlanet-TVが入手したのは、福島県の原子力センター福島支所(現・環境創造センター福島支所)がある福島市方木田の一般家屋のダストサンプリングデータ。2011年3月22日の12時25分と19時16分の2回にわたり、屋外と屋内で同時刻に20分間、大気中のダストを採取し、ゲルマニウム半導体計測器で計測していた。その結果、12時25分に採取した大気の浮遊じんからは、屋外では2.23Bq/m3、屋内では1.51Bq/m3放射性ヨウ素131が検出され、屋外のヨウ素の濃度が大きかったが、19時16分の採取では、屋外が2.03Bq/m3に対して、屋内では2.18Bq/m3と、屋内の方が屋外より、わずかに放射性ヨウ素の大気中濃度が上回っていた。

3月22日12時25分に採取されたダストサンプリング結果(左は屋外、右は屋内)

一般家屋の屋外で採取したダストサンプリング結果
(2011年3月22日12時25分~45分に採取)
一般家屋の屋内で採取したダストサンプリング結果
(2011年3月22日12時25分~45分に採取)

3月22日19時16分に採取されたダストサンプリング結果(左は屋外、右は屋内)

一般家屋の屋外で採取したダストサンプリング結果
(2011年3月22日19時16分~36分に採取)
一般家屋の屋内で採取したダストサンプリング結果
(2011年3月22日19時16分~36分に採取)

福島県の担当者は、このデータについて、過去に公開された記録はないとした上で、「一般民家なので、外気と一緒に屋内に入り込んでいたため、ダストサンプリングの結果は、屋外も屋内も大きな違いはなかった」と説明。当時の空間線量が、屋外は屋内より3〜4倍も高かったことにも言及し、屋外では、土壌からの放出される放射線量(グランドシャイン)が影響が強く、これが遮蔽される屋内の空間線量は低かったが、大気中の放射性ヨウ素はそれとは異なる結果だったとの認識を示した。

福島県は、ダストサンプリングをしている20分の間に、計5回にわたって空間線量率も計測しており、その数値は、12時25分の計測では、屋外の平均線量が2.59μSv/h、屋内は0.71μSv/h。19時16分の計測では屋外で2.73μSv/h、屋内は変化なく0.71μSv/hだった。

県がまとめた資料。放射性ヨウ素のダストサンプリングの数値3箇所に誤りがあった。正しい数値(赤字)はOurPlanet-TVが記載。

屋内でもヨウ素濃度、低減せず

環境放射能が専門で、屋内退避の防護効果に詳しい名古屋大学大学院の山澤弘実名誉教授は、「県の解釈に違和感はない」とした上で、「家屋の状態が分からないので具体的なことは言えないが、屋内の空気中濃度が低減せず、屋外とほぼ同程度となるのは不自然ではない。」と解説する。 

また京都都大学複合原子力科学研究所研究員の今中哲二さんは、「かつて、ヨウ素が屋内に入って滞留する簡単なモデル計算をした結果、完全密閉でない限り、換気率が小さくても、いったん屋内に入るとなかなか屋外に出ないため、プルーム滞在がある程度続けば、屋内の積算濃度はあまり変わらないという結果だった。」「この測定データは、私の計算結果と一致している」と述べた。

いずれの専門家も、ヨウ素131以外の核分裂生成核種が検出限界以下であることなどから、データで捉えられているヨウ素は、プルームの影響ではなく、3月15日のプルームで運ばれてきたヨウ素131の再浮遊であるとの見方を示した。

2011年3月15日以降、緊急モニタリングの拠点となった福島県原子力センター福島支所(福島市方木田)福島県のホームページより 

非公表だった屋内と屋外データ〜福島県独自の調査か

福島原発事故後、原発周辺の環境放射能を計測していた福島県の原子力センターは3月14日夜、放射線量の上昇に伴い、大熊町の原子力センターを閉じて、福島市にある原子力センター福島支所に移動した。15日はここを拠点に、大熊町の原子力センターから持ち出した計測機器を使って、職員4人が計測を再開。十分な計測体制が取れない中、翌16日には、国のモニタリングチームの傘下に入り、文部科学省や日本原子力研究機構(JAEA)と分担して測定を行うことになった。同時に、計測結果の公表も、国に一元化されるようになった。

ところが、3月22日に一般家屋の屋内外で実施されたダストモニタリングは、国の指示ではなく、福島県が独自で調査したため、国に共有されず、また福島県独自でも公表しなかったと見られる。県の担当者によると、屋内にいた場合に、どの程度の被曝するかを調べる目的で、試験的に実施したものと推察されるが、目的などが記載された文書は一切、残っておらず、過去に公開された形跡もないという。

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