福島第一原発事故
2017/12/20 - 20:18

「放射線の影響とは考えにくい」に疑問~甲状腺がん患者の8割

福島原発事故後、甲状腺がんと診断された子どもたちを経済支援を行っている民間団体「3・11甲状腺がん子ども基金」はNHK福島放送局と共同で、事故当時、福島県内に住んでいた患者に対してアンケート調査を行い、52世帯から回答を得た。全てのアンケート結果を22日にホームページで公表する。

「原発による影響」48%、「関係ない」は8%
アンケートを実施したのは今年8月7日から8月30日までの3週間。これまでに同基金が療養費を給付した福島県内の患者と家族67世帯に調査票を送付し、52世帯 (77.6%)から回答を得た。回答したのは、本人が12人、母親が33人、父親は7人で半数以上が母親の回答と、本人が回答した割合は23%にとどまった。

アンケートの設問は全部で20問あり、甲状腺がんについて、「原発事故による影響はあると考えていますか」との質問に対しては、「大いにある」が16人(31%)「少しはある」が9人(17%)と、甲状腺がんの原因が原発と関係あると考えている人が半数近くを占めた。また、「わからない」が23人(44%)もで、「ない」と回答したのはわずか4人(8%)だった。

また、その理由について尋ねたところ、「関係ある」とした人は、事故直後の行動や線量を結びつけたり、甲状腺検査の結果について疑問に感じていた。

「原発による影響がある」と答えた理由
母親:3月12日から数日 長時間外にいて被曝してしまうような行動をしていた
本人:家の畑で作った野菜を食べてたからです
母親 : 放射線が高く平成28年12月の時でも自宅の庭が2.0もあり近くの家の所は10もあった
母親:事故後の健康調査で多くの子ども達が、甲状腺がんと診断されているので、影響はあると思います
母親:短期間にA1からBになったことを思うとやっぱり原発のせいかなと思ってしまう
本人:甲状腺がんの人があまりにも多いからです
母親:甲状腺がんは進行性が遅いと聞いているし、何も症状がなかったのに、事故後、首が腫れたりして、体の異変を急に感じる事になって発症したから

「放射線の影響とは考えにくい」「過剰診断」どう思う
また2016年3月に「県民健康調査」検討委員会が公表した中間とりまとめで「甲状腺がんは放射線の影響とは考えにくい」と報告したことについての考えを尋ねたところ、回答した44人のうち「そう思う」は2人、「どちらかというとそう思う」は6人、「そう思わない」は18人、「どちらかといえばそう思わない」も18人と検討委員会の結論に賛同しない人が8割を占めた。

甲状腺がんが多く見つかっていることについて、「将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性がある」(過剰診断)との指摘についてどう思うかを聞いたところ、回答のあった40人のうち、「過剰診断」という見解に疑問を呈する意見が大半を占めた。

「過剰診断」との見解についてどう思うか

賛同する意見
母親:同意見です 実際、子供は自覚症状等なく健康そのものでした 原発事故がなければ発見されることなく過ごせた可能性も有ったと思います
母親:そうなのかもしれない しかし多く見つかっている事は現実だと思う
母親:専門的知識がないので わからないのが本当のところです しかし、もしこの検査がなければ娘のがんが見つからずに、すごしていたのかなとおもうところもあります

否定する意見・異論
本人:過剰診断ではないと思います たとえ腫瘍が小さくても、転移している人はいるし、私のように気管の近くに腫瘍がある人もいます。過剰診断にしてしまったら、気管に腫瘍がくっついてしまって手遅れになってしまうケースも今後でてくると思います。また、放射性被ばくによる腫瘍の成長は早いという見解もあるので過剰診断として扱うのはリスクが高いと思います
父親:「過剰診断」により甲状腺を摘出されてしまった子供達は“傷害”を受けたことになる。今さら「手術の必要はなかった」などと云うことができるのか?その場合、“傷害”に対する賠償はどうするか示してもらいたい
本人:病気というのは、病気になった本人や家族など、身近な人しか痛みがわからないと、この病気になって、改めて強く感じました。死に結びつかないからいいでしょう?そんな言葉を自分の大切な人に言えないと私は思います。他人だから過剰診断と言える結果論であり、遺憾です
母親:被曝による甲状腺がんとなったら大変だから検査をしているのに、過剰診断だと言う指摘は当てはまらない
母親:死に結びつかないかもしれませんが、腫瘍の大きさによっては声が出づらくなったり、手術の時に声帯を傷つけ声が出なくなってしまうかもしれないと説明を受けたのを覚えています 子供には未来があるので、過剰診断だとしても、何が子供にとって一番大切なのかを考えて行動するべきではないでしょうか
母親:放射線の影響と考えたくないからむすびつけていると考えられる 他県でも調べてデータ化して欲しい 同じ年代の子供達に検査してみつかるか調べて発表して欲しい
母親:全都道府県で同じ人数の甲状腺検査をして比較してみてほしい  他の都道府県でも同じ人数の甲状腺ガンが見つかるのなら、過剰診断だと納得する
母親:甲状腺がんで甲状腺全摘し、リンパ節郭清を13歳で経験し、再発し、2度の手術を受けている 子供を持っている親にしてみれば、初期発見は大切だと思う
母親:可能性がある事は理解できますが、だからと言って放射線の影響が全くないとは思えません 調査、研究は続けてほしいと思います

早期発見早期治療の重要性を訴える意見
母親:がんはがん 体の中にあると思うととても不安だ いくら死に結びつかないと言われても、がんはがん 娘は見つけてもらえて、ありがたかった
本人:癌があるなら摘出したほうが気が楽
本人:死に結びつかないとしても自分ががんだとわからないよりわかっていたほうが自分はいいと思います
本人:手遅れになるよりは早期発見のほうがいいと思う
本人:過剰診断でもがんが見つかるなら良い事だと思う
母親:何とも言えませんが早期発見につながるのならとは思いますが・・・
母親:考え方は人それぞれだと思う。息子の場合は、甲状腺乳頭癌、リンパ節転移の診断を受けたので、悪性でもあったので 早期発見だったので良かったと思っています
母親:過剰診断なのかどうか、実際自分の子供ががんと診断された訳ですから、少しでも悪い物を見つけて頂く上で必要だと思います
母親:甲状腺がんが多く見つかっても手術の必要がないと診断されればしなくていいのだから、検査は続けてもらいたいです
母親:可能性がある事は理解できますが、だからと言って放射線の影響が全くないとは思えません。調査、研究は続けてほしいと思います

摘出手術後の予後や生活変化

手術の術式については、回答がなかった6人を除く46人のうち、35人が半摘、9人が全摘、部分摘が2人だった。

また1回目の手術後の予後については、回答のあった47人のうち5人(9.6%)が1回目の手術後に「再発・転移があった」と回答した。

なお現在の通院頻度については、47人のうち14人が3ヶ月に1回は通院しており、半年に1度の患者は27人、1年1度程度の通院で済んでいる患者は6人(13%)に過ぎなかった。また「手術後の生活で変わったところはあるか」との質問には、同基金が今年4月に公表したデータと同様に、「疲れやすい」といった回答が目立った。

具体的な変化(自由記述)
母親:病気をしやすく、体がつかれやすくなった
母親:肩こりがひどい 疲れやすい
父親:生活面では極力変わりなく接しているが、常に精神的には緊張を強いられている
母親:体力の衰え(以前より風邪をひきやすくなった)。だるさ、疲労感 、不眠
本人:とても眠気がある 太りやすくなった。昆布等ヨウ素のあるものは制限されている
本人:手術前に比べて疲れやすくなったのと摂取制限(魚や海藻など)があること
母親:前にもお伝えしましたが、時間が不規則なTV局(地元)の内定を辞退し、東京で会社員として働く事を選びました
本人:職場を変えてから手術しました
母親:夢や希望を持たなくなり、乱暴になる。自分の生き方は、どうなろうとかまわないと投げ遣りです
母親:喉の傷はいつ見ても痛々しいです。目につくところなので他人の視線や差別について考えてしまいます
母親:まだ傷がはっきりわかるため、見えない様な服を探し着ています
母親:手術あとを見て「それどうしたの」と聞かれる事もあるようですが、友達と遊びに行ったり毎日仕事に行ったり普通だから

8割が不安感じる~半数が再発懸念
「いま不安に感じていることがありますか」との質問については、回答した50人のうち8割にあたる40人が「不安がある」と回答した。また46%にあたる23人は再発の不安を訴えた。

いま不安に感じていること(自由記述)
母親:がんの転移
母親:再発しないか心配です
母親:これから再発、転移はあるのだろうかと、家族皆が心の隅にあります
母親:どこに転移するのかわからない 再発が心配。保険に入れるか?かけ捨てではないやつ 就職、結婚
母親:今後の再発や保険など、生きていく上でがんの診断が無い人間とは選択すべきことがちがってくる
母親:再発の心配、結婚、妊娠の事とか。今、来春予定の就職先に伝えていないので、大丈夫か心配しています
本人:いつまで食事制限があるか 妊娠できるか
本人:予後が良いガンと言われていますが、それは私の感覚では違います  転移などは今後もないかもしれませんが、以前よりもだるさや疲労感を感じることが多くなりました 予後が良いと言われている病気だからこそ、目に見える症状があまりありません どうしてだるいの?本当は何もないんじゃない?そんな、私にとって心無い言葉をかけられることが多くなりました。術後=完治と思われがちですが、このような状態が今後も続くのかと思うと不安で苦しくなります
母親:これから進学、就職等々むかえるにあたってすべてにおいて漠然とした不安はあります。生涯薬を服用しなければならない事に関しても、災害・不慮の事故等があった時の事を考えると不安になります

同アンケートはNHK福島放送局と共同で実施され、11月に放送されたNHKのBS1スペシャル「原発事故7年目〜甲状腺検査はいま」で紹介された。同番組では「再発への不安」について取り上げた一方、手術後にすでに「再発した」患者が5人いることや「過剰診断論」についておかしいと感じている患者が大半だったことについては触れられていなかった。今回の基金がアンケート結果全てを公表したことにより、患者の多くが「早期発見・早期治療」を重視していることや検査の拡充を求めていることが明らかとなった。

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