福島第一原発事故
2014/12/23 - 20:24

甲状腺がん悪性・疑い112人~前回「異常なし」の子も4人

東京電力福島第1原発事故の健康影響を調べている福島県の「県民健康調査」の検討会が24日、福島市内で開かれ、甲状腺がん悪性と診断された子どもは、悪性疑いも含め112人になった。すでに手術を終え、甲状腺がんと確定した子どもは85人に達した。1巡目の検査で「異常なし」とされた子ども4人が、今年4月から始まった2巡目の検査で甲状腺がんの疑いと診断された。

乳頭がん81人、低分化がん3人確定
2011年秋から開始している福島県内の甲状腺検査。2011年から2013年までに福島県内のすべての地域で1回目の検査を終了し、事故当時18歳以下37万人のうち約8割にあたる29万6000人が受診した。その結果、2次検査の穿刺細胞診で悪性または悪性疑いと診断された人は109人。手術を終えたのは86人で、1人は良性結節だったものの、乳頭がんが81人、低分化がんが3人と確定した。低分化がんは、通常の乳頭がんや濾胞がんに比べ進行がやや早いため、悪性度は乳頭がんや濾胞がんよりやや高いとされる。

前回異常がなかった子4人が新たに悪性診断
一方、2014年4月から開始している2巡目の本格検査は、事故後1年間に生まれた子どもも含む約38万人が対象となっており、10月末までに約8万2000人が受診。そのうち6万人の検診結果が確定した。その結果、5ミリ以上の結節や20センチ以上ののう胞があるとして「2次検査が必要(B)」とされた人は457人。そのうち、1巡目の検査で、では「まったく異常なし」とされていたA1判定だった子が127人、5ミリ以下の結節またはのう胞があるものの「異常なし」とされていたA2判定の子が206人でと、1巡目の検査では2次検査の必要のなかった子計333人が、新たに2次検査を受診する必要が生じた。

 さらにこの中で、10月末までに11人の子どもが穿刺細胞診を実施。うち4人の子どもが、悪性または悪性疑いと診断された。4人の事故当時の居住地は大熊町、田村市、伊達市、福島市で、事故後4ヶ月の外部被曝線量は、2人が1ミリシーベルト以下、1人が2.1ミリシーベルト、一人は被曝線量推計のための基本調査に参加していない。年齢は事故当時6才、10才、14才、17才で、男女比は男性3人、女性1人となっている。

4人は、1巡目では、2人がA1判定、2人がA2判定だった。しかし、腫瘍の大きさは、7ミリから17.3ミリで、平均は12.0ミリ。1巡目の検査から2巡目の確定まで最長で3年。福島県立医大が腫瘍を「見落とし」していなかったとすれば、1年間に4ミリ〜5ミリ程度というスピードで腫瘍が成長した可能性がある。これについて、検査に当たっている福島県立医大の鈴木眞一教授は「見落としはない」と断言。その一方、「見えない種類のものもある」などと説明した。

甲状腺検査をめぐっては、11月11日に開催れた甲状腺評価部会において、国立がんセンターの津金昌一郎委員が、通常の60倍以上の有病率であると指摘。35才までに発症するすべての甲状腺がんを見つけてしまったことになるとして、「過剰診断」の恐れがあると警告していたが、今回に会議で、津金委員は「スクリーニングの感度は100%ではない」と説明。「高い精度のスクリーング」とされてきた説明にも矛盾が生じてきている。

また、通常の甲状腺がんでは、男性と女性の比率が1:2と女性が多いのに対し、今回の結果が逆だった点を、甲状腺専門医の清水一雄委員が質問。これについて、鈴木教授は、「まだ4例であるため」と症例数が少ないことで、データに偏りが生じていると回答。検討委員会後の会見で、座長の星北斗氏「放射線の影響は考えにくい」と従来の見解を繰り返した。

「県外でも症例把握すべき」岡山大学・津田敏秀教授
森永ヒ素ミルク事件や水俣病に関わった環境疫学を専門とする岡山大学の津田敏秀教授は、「「まだ4例だから」として疫学分析をしない検討委員会の責任は重大だ」と話す。津田教授によると、1巡目の検診で「異常なし」とされ2巡目で新たに甲状腺がん悪性と診断された4人を、先行検査からの期間を3年間、1次検査確定数60,505人を分母として外部比較*すると、7.35倍(95%信頼区間:2.00倍-16.10倍)と有意に多発しているという。

甲状腺がん有病割合の比較

津田教授は、現在の甲状腺がんの発見状況全体はすでに2013年のWHOによる予測を上回っていると指摘。今回の結果を受け、被曝線量の見直しや福島県の隣接県である茨城県、栃木県、群馬県、宮城県などでの症例把握を早急に計画すべきであると提言する。また検査が実施されていない18才以上の甲状腺がん検査。白血病をはじめ、放射線感受性の高い疾病に関する症例把握も早急に着手する必要があるとしている。さらに津田教授は「福島県内の空間線量率の高い地域においては、妊婦や若年者を優先させた、避難を含む放射線防護対策を強化するべきだ」と強調する。

*外部比較は、国立がんセンターの0歳から19歳の年間甲状腺がん発生率(2003-2007)を根拠にして100万人中3人としている。

上記の2表の見方(作成はいずれも岡山大学・津田敏秀教授)
1年目(平成23年度)対象地域はそのまま。2年目(平成24年度:いわゆる中通り)対象地域は、まとまった人口の地域ごとに「北(福島市、桑折町など)」「中部(二本松市や本宮市など)」「郡山市」、「南(白河市、西郷村など)」の4地区に分割。3年目(平成25年度)対象地域も、「北東(新地、相馬)」「いわき市」「東南(いわき以外)」「西(会津地方)に4分割し、「北東」地区を対照地域とした。また外部比較は「有病割合 ≒ 発生率 × 平均有病期間」の公式に基づき、発生率100万人に3人、有病期間を4年を当てはめた。

記者会見

妊産婦や白血球分画の異常をどう見るか
検討会後の記者会見では、「妊産婦検査」や避難区域で実施している「健康診査」についても、質問が出た。「妊産婦検査」では、NHKの記者が、平成23年の先天性異常が平成24年、25年より多い点について、「有意差」があるか質問。これに対し、県立医大の藤森敬也教授は「わからない」と回答した。しかし、これについても岡山大学の津田教授は、計算上「有意差はある」とする。

また「健康診査」については、フリーの記者が、白血球分画検査の結果について、平成23年度に低下して以降、24年、25年と低いまま変化していないと質問。これについて、同大の石川徹夫教授は「異常値ではないので問題はないと考えている」と回答した。

なお環境省の専門家会議が、福島県の甲状腺検査を縮小し、疫学的な研究を強化するよう提言したことについて、星座長は「学術的にどう違うか(被曝影響があるか)という点に一義を置くのかどうかという点でいえば、私としてはそうではなくて、県民の健康を見守っていくほうに重きを置くべき」と名言。県民の健康を「見守る」という視点を変更しないとする考えを示した。

配布資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-17-si…

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