小児甲状腺がん
2021/05/20 - 22:02

専門家「質の低下」懸念〜福島の甲状腺検査

福島県の「甲状腺検査」をめぐり、福島県は4月から、学校検査における同意書取得の方法を一部、変更した。これについて、公衆衛生の専門とする岡山大学の津田敏秀教授は「通常、あり得ないこと」と批判。受診率が大きく変化するような検査方法の変更は「検査の質の低下につながる」と警鐘を鳴らす。一方、検査を実施している福島県立医科大学は、「大きな影響があるとは考えていない」との見解を示し、受診率の低下についても試算していないことを明らかにした。

福島県の甲状腺検査は、「子どもたちの健康を長期に見守る」とともに、「甲状腺の状態を継続して確認する」ことを目的に、原発事故当時18歳以下だった福島県民と胎児38万人を対象に、2年ごとに実施されてきた。受診率は年々低下しているものの、学校での検診を受診できる6歳から18歳の年代は今も8割から9割の高い受診率を誇っていきた。

しかし福島県は4月から、学校による同意書の回収を中止。これまで福島医大に同意書を返送せず、学校を通じて同意書を提出していた子どもは3割にのぼるとされるため、今回の変更で、受診率が低下する可能性がある。県は学校検査の当日、子どもが同意書を持参すれば受診は可能というが、仮に、学校に通う年代で受診率が3割低下すると、検査全体の受診率は一気に35%程度まで低下する恐れがある。

通常あり得ないこと〜津田教授
これについて、多くの公害裁判で因果関係の立証に貢献してきた岡山大学の津田敏秀教授は、検討委員会を経ず、事務局が同意書の回収方法を変更したのは「通常あり得ないこと」と批判。データの大きな変化が起こり得る変更を、責任者を明確にしないまま行っていると問題視し、「税金予算を使ってやってるにも関わらず、その質を落とすようなことが起きている」と警鐘を鳴した。

さらに一部の専門家の意見により、「大多数の希望と逆の方向になっているのは奇異な感じがする」とも。この10年間、「集計外」となる事例が出るなど、数へのこだわりがなくなっていると指摘。その上で、未受診者から甲状腺がんが数例見つかった場合、「過剰診断」や「スクリーニング効果」との主張は崩れるとして、未受診者の中で、どの程度、甲状腺がんの子が見つかるか。その数え上げが重要であるとの見方を示した。

福島県民健康基金の残高は580億円
福島県民健康調査の「甲状腺検査」は、国と東京電力が拠出した1000億円の「福島県民健康基金」をもとに、30年間継続することを目指して開始された。初年度は、県民200万人の外部被曝線量を推計する「基本調査」に予算を割いたが、2014年度以降は「甲状腺検査」に充てる費用が最も多く、数年は8億円前後となっている。昨年3月までに基金全体の残金は580億。福島医大内の人件費に充てる割合が徐々に増えている。

また甲状腺検査については、福島県立医大の倫理委員会に研究計画書を提出した疫学研究で、予想される研究結果として、「放射線の甲状腺に対する影響を評価でき、現時点で予想される外部被曝並びに外部被曝を考慮すると、その影響は極めて少ないことを明らかにできる」としている。

検査を実施している福島医科大学は、今回の変更について、「 現時点では大きな影響があるとは考えておりません。」と回答。また、5巡目の受診率の減少について試算はしていないことを明らかにした。また、今回の決定は、「県と医大の責任のもと変更した。」としている。

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