福島第一原発事故
2026/01/09 - 17:49

原発避難者、住宅明け渡し〜最高裁が上告棄却・三浦裁判官は反対意見

東京電力福島第1原発事故で福島県から自主避難し、公務員宿舎に入居した女性に対し、県が住宅の明け渡しと損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は9日、女性側の上告を棄却した。退去と家賃相当分の賠償を命じた判決が確定した。一方、三浦裁判長は福島県には原告適格性がなく、また、あったとしても福島県の対応は、災害救助法の解釈を誤り、違法ではあるとして、差し戻すべきとの反対意見をつけた。

女性は2011年3月、福島県南相馬市から避難し、東京都江東区にある国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居した。入居当初は、災害救助法に基づき家賃は無償だったが、県は2017年3月末、避難指示区域外からの自主避難者に対する住宅の無償提供を打ち切った、また、家賃を払えば19年3月まで住むことを認める「セーフティーネット契約」を提示したが、女性は家賃を支払うことができず、そのまま住み続けた。これを理由に、福島県は2020年、住宅の明け渡しと家賃相当の損賠賠償を支払うよう求めて、女性を提訴。一審・二審で、福島県の主張を認める判断が出ていた。

今回、最高裁判所の4人の裁判官のうち、3人は一審・二審の判断を維持し、上告を棄却したが、三浦裁判長は反対意見で、福島県の対応について違法と判断した。

三浦守裁判官の反対意見

私は、多数意見と異なり、被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、原判決中、被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当と考える。また、仮に、被上告人が上記原告適格を有するとしても、原審の判断には、災害救助法等の法令の解釈適用を誤った結果、必要な審理を尽くさなかった違法があり、これは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中、上記建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分について事件を原裁判所に差し戻すのが相当である。以下、理由を述べる。

第1. 判示第2(被上告人の原告適格の欠如)について
1 被上告人の上人に対する本体物の明酸は、後上生人が、国に対して有する本件物の使用に関する権を保全するため、国の上人に対する所有権に基づく建物明被請求権を代位行使するものである。
 彼上告人は、平成29年2月、区城外避難者について応急仮設住先の映与を終了するに当たり、避難者の住宅確保のための更なる方策として、各都道府県知事が避難者に応急仮設住宅として供与している国家公務員宿舎について、被上告人が、国から使用許可を受けることを前提として、住宅確保の見込みの立っていない避難者のうち一定の条件を満たした者との間で、セーフティネット契約を締結し。貸付料の支払を受けて、上記宿舎を提供することとした。
 被上告人が本件建物について国から受けている本件使用許可は、平成29年以降、毎年、4月1日から翌年3月31日までを使用期間とするものであるところ、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの使用に係る本件使用許可は、上告人が本件建物の継続入居を希望していることを踏まえ、セーフティネット契約の締結を前提としていたものと解される。そして、上告人が同契約の締結に応じないまま、その貸付期限である同日を経過したため、被上告人が上告人との間で同期約を締結する余地はなくなったが、その後も、被上告人は、上告人が継続入居していることを前提として、毎年、4月1日から翌年3月31日までを使用期間とする本件使用許可を受け、国に対し使用料を納付している。
 原審において、上告人が本件建物から退去した場合に、被上告人が他の被災者に本件建物を使用させるための新たな貸付に関する制度や仕組みは認定されておらず。その存在はうかがわれない。被告人も、上告人らの意向の下に国から本件使用許可を受けた立場として適切に明渡しを求める等の対応をしていくために許可申請を行っている旨の主張をしており、本件使用許可に至る経緯等に照らしても、本件使用許可が、被上告人が上告人以外の被災者に本件建物を使用させることを前提とするものとは解されない。
  そうすると、本件使用許可は、継入居している上告人が退去するまでの間、上告人の住宅の用に供することを目的とするものと解され、それ以外の用途を有するものということはできない。 原審は、国有財産使用許可上、被上告人知事が使用を認めていない上告人に対し本件建物を使用させることが指定用途とされているとはいえないものとする。しかし、その一方で、原審は、本件使用許可に関し、その使用は、継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供する目的に限定され、それ以外の用途に供してはならないものとしており、本件建物について、上告人以外に継続入居の要件に該当する世帯はあり得ないから、上告人の住宅の用に供する目的を否定することは、論理的に矛盾し不合理である。

2 被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、被上告人が、国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、国の上告人に対する建物明渡請求権を代位行使するものであるところ、その被保全債権は、本件使用許可に基づくものであるから、上告人の住宅の用に供することができる状態にすることを求める債権であると解される。
  そうすると、上告人が本件建物の居住を継続している限り、被上告人の被保全債権は実現しており、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、被保全債権の実現を妨げるという関係にもないから、上記建物明渡請求権の代位行使を基礎づける原告適格に関し、被保全債権を保全する必要性を認めることはできない。 
  原審は、被上告人が占有権原を有しない占有者に対し明渡しを求めることは、本件建物につき国から使用許可を受けている被上告人の権利であるとともに国に対する義務でもあるとして、上記権利を行使し義務を果たすために、国の上告人に対する明渡請求権を代位行使することができるものとしている。
 しかし、被上告人の国に対する義務が債権者代位権の原告適格を基礎づけるものでないことは明らかである。また、仮に、被上告人が国との関係で上告人に対し明渡しを求めるべき立場にあり、国に対しその協力を求める債権を有すると考えるにしても、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、上記債権の実現を妨げるという関係にもない。このような債権者代位権の行使は、債権者代位制度の目的を逸脱するものというべきである。

3 以上のとおりであり、被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、原判決中、被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当である。

第2 判示第3(法令の解釈適用の誤り)について

1 国際約束等

(1) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)11条1項は、締約国に対し、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利を認め、この権利の実現を確保するために適当な措置をとることを義務付けている。
(2)国内避難に関する指導原則(E/CN.4/1998/53/Add.2)は、国内避難民を保護するための重要な国際的枠組みと認識され、その保護を増加させるための効果的な方策をとる旨の国際社会の決意が表明されているところ(2005年(平成17年)世界サミット(国際連合首脳会合)成果文書13 2項参照)、同指導原則は、災害により避難を余儀なくされた者を含む国内避難民について、国内当局は、国内避難民に保護及び人道的援助を提供する一義的な義務及び責任を有し、国内避難民は、これらの当局による保護及び人道的援助を要請し、及び受ける権利を有すること(原則3)、国内避難民は、移動の自由及び居住地の選択の自由についての権利、自らの生命、安全、自由若しくは健康が危険にさらされる可能性のある場所への強制的な帰還又は再定住から保護される権利、適切な生活水準に対する権利等を有すること(原則14、15、18)、権限のある当局は、状況に関係なく、及び差別することなく、国内避難民に対し最低限、基本的な避難所及び住居等を提供し、これらの安全な利用を確保すること(原則18)、権限のある当局は、国内避難民が自らの意思で、安全に、尊厳を雑持しつつ、自らの住居若しくは常居所地に帰還できるようにし、又は自らの意思で国内の別の場所に再定住できるようにする条件を盛え、及びそのための手段を提供する、一義的な義務及び責任を有すること(原則28)等を定めている。
(3) 本件事故の被災者の保護に関する関係法令の解釈適用については、社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえてこれを行うことが相当である。

2 災害救助法等の法令の解釈

(1) 災害対策は、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等を基本理念とし、国は、上記基本理念にのっとり、国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命を有することに鑑み、組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有し、また、都道府県は、上記基本理念にのっとり、住民の生命、身体及び財産等を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施すること等の責務を有する(災害対策基本法2条の2第5号、3条1項、4条1項等)。

(2)災害救助法(平成30年法律第52号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、災害に際して、国が地方公共団体等及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とするところ(1条)、この救助は、国が本来果たすべき役割に係る事務であるが、同法により、都道府県知事が、当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して行うものとされ、その事務は、地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務とされる(同法2条、17条)。そして、災害救助法4条1項各号に掲げる救助について、救助の程度、方法及び期間に関し必要な事項は、政令で定めるものとされ(同条3項)、災害救助法施行令(平成30年政令第359号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、救助の程度、方法及び期間は、応急救助に必要な範囲内において、内閣総理大臣が定める基準に従い、あらかじめ、都道府県知事がこれを定め、内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事は、内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、救助の程度、方法及び期間を定めることができるものとする(3条)。
  災害救助法による救助のうち、応急仮設住宅の供与(同法4条1項1号)は、「住家が全壊、全焼又は流出し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないもの」を対象とするところ(「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成25年内閣府告示第228号(平成30年内閣府告示第51号による改正前のものをいう。以下「平成25年内閣府告示」という。)2条2号))、原子力災害において、住家は失われていないものの、放出された放射性物質により汚染されている居住地からの避難を余儀なくされている被災者は、住家が失われた者に準じて、その対象となるものと解される。
  応急仮設住宅を供与できる期間は、建築基準法(平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下同じ。)85条3項又は4項に規定する期限までとされ(平成25年内閣府告示2条2号)、最長で2年3か月である。しかし、著しく異常かつ徼甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合において、当該非常災害が特定非常災害として政令で指定されたときは、建築基準法2条35号の特定行政庁は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため同法85条4項の期間を超えて当該被災者の居住の用に供されている応急仮設建築物である住宅を存続させる必要があり、かつ、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるときは、更に1年を超えない範囲内において同項の許可の期間を延長することができ、当該延長に係る期間が満了した場合において、これを更に延長しようとするときも同様とされている(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下「特定非常災害特措法」という。)2条、8条)。民間賃貸住宅を借り上げて供与するなど適切な方法により供与する応急仮設住宅についても、上記に準じて取り扱われるものと解され、都道府県知事は、内閣総理大臣に協議し、その同意を得だ上で、応急仮設住宅を供与できる期間を延長することができる(災害救助法施行令 3条2項)。
  本件事故に係る災害は、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずること等が特に必要と認められるものとして政令で指定された(東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令(令和4年政令第203号による改正前のものをいう。)1条、2条)。

(3) 災害救助法による応急仮設住宅の供与は、災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者に対し、応急的に住宅を供与することにより、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。そして、上記供与は、その間、できる限り早期に安定した住宅の確保が図られるよう、被災者の住宅の需要を的確に把握するとともに、その需要に応ずるに足りる適な住宅を確保し、十分な情報を提供するなど、必要な支援を行うことを前提にするものと解される。
 また、特定非常災害特措法8条等により応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置は、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため、所定の期間を超えて、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要がある場合に、上記措置により、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。
 都道府県知事が、内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての都道府県知事及び内閣総理大臣の各判断は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他災害における救助等に関する専門的、技術的な知見を要すること等に鑑み、都道府県知事及び内閣総理大臣の合理的な裁量に委ねられるものと解される。また、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他の事情を考慮して、一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないことは、上記各裁量の範囲内において許されるものと解される。
 もっとも、災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者は、それぞれ、被災及び避難の状況、避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等は様々であり、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要性も大きく異なる。
 取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺(以下「被災地域等」という。)に限られないこと等にも鑑みると、所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である。
被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる。社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念及び責務にも鑑みると、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての判断に当たっては、応急仮設住宅を使用する必要性に関し、広域における住宅の供給状況等を踏まえ、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないものと解される。
 また、上記期間を延長する措置に関し、一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないこととするに当たっては、上記要件に適合しないものについて、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められなければならないものと解される。

3  応急仮設住宅の供与に関する措置についての判断の瑕疵
(1)ア 本件建物は、被上告人知事から災害救助法に基づく救助を行うことについての応援の要請を受けた東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けた上で、上告人に対し、応急仮設住宅として供与したものである。
 被上告人知事は、内閣総理大臣の同意の下に、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、2年を超えて1年ごとに上記期間を延長していたところ、被上告人(知事)は、平成27年6月、国(内閣総理大臣)に協議しその同意を得た上で、平成29年3月末日まで上記期間を延長するとともに、区域外避難者については、同日をもって応急仮設住宅の供与を終了し、同年4月以降は、災害救助法に基づく救助から新たな支援策へ移行していくこととした(以下、この措置を「本件措置」という。)。その後、被上告人知事は、内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、避難指示区域からの避難者(以下「区域内避難者」という。)について、平成29年4月以降も上記期間を延長することとした(以下、この措置と本件措置を併せて「本件措置等」という。)。
本件措置等は、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、平成29年3月末日までは、全ての避難者に係る上記期間を延長するとともに、同年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区城内避難者に係る上記期間を延長する一方で、区域外避難者に係る上記期間を延長しないこととするものと解される。

イ 原審が適法に確定した事実関係によれば、本件措置等については、本件事故から平成29年3月までに約6年が経過し、その間、福島県内の各市町村においては除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいること、応急教助という災害救助の基本的な考え方、阪神・淡路大展災の例、宮城県及び岩手県において全て一律に供与の期間を延長することについて国から厳しい見方が示され、平成29年4月以降の延長について国の同意を得ることが極めて困難となったこと等の事情が考慮された。
また、応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策は、借上げ住宅等から福島県内の恒久的な住宅への移転費用の支援、低所得世帯等に対する民間賃貸住宅の家賃の支援、避難者のための住宅確保(公営住宅等)への取組みなどの検討を進めることを新規・重点施策とし、生活再建支援策の継続・拡充も実施していくこととされた。そして、被上告人は、各都道府県に対し、住宅確保等についての協力を依頼し、東京都は、都営住宅公募に当たり専用枠を設定するなどした。また、被上告人は、前記のとおり、セーフティネット契約の締結等の措置を講じた。

(2)ア放射線障害防止の技術的基準に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とし(1条、2条2項)、上記技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならないものとした上で(3条)、放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命される委員で組織する放射線審議会を設置し(4条、7条2項)、関係行政機関の長が上記技術的基準を定めようとするときは、同審議会に諮問しなければならないものとする(6条)。
放射線審議会は、国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年(平成2年)の勧告を踏まえ、公衆の被ばくに関する限度に関し、実効線量については年1mSyとするなどとして、これを規制体系の中で担保することが適当であるとし(平成10年6月10日同審議会決定「ICRP 1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて(意見具申)」)、関連する法令の規定は、これに従って技術的基準の斉ーが図られている。

イ 避難指示区域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、住民の避難や立入りの制限等に関する指示がされた区域であるが、その設定及び解除については、住民が1年間に被ばくする放射線量が20mSyを超えるか香かが、一つの基準とされている(平成23年12月26日原子力災害対策本部決定「ステップ2の完了を受けた醤戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」等)。
上記避難等に関する指示は、原子力災害対策本部長が、緊急事態応急対策等を的確かつ迅速に実施するため特に必要がある措置として、地方公共団体の長に対して行ったものであり(平成24年法律第47号による改正前の原子力災害対策特別措置法20条3項、同改正後の同条2項)・、その一つの基準とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準ではなく、公衆の被ばくに関する限度について、放射線障害防止法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉ーが図られたものでもない。

ウ「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質環境汚染対処法」という。)は、本件事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染が生じていることに鑑み、上記汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置等について規定する。
そして、放射性物質環境汚染対処法に基づく土壌等の除染等の措置は、除染特別地域(環境大臣が同法25条1項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)及び汚染状況重点調査地域(環境大臣が同法32条1項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)において実施されるが、このうち、汚染状況重点調査地域の指定及び・同地域内の除染実施区域の指定に係る「環境省令で定める要件」(同法32条1項、36条1項)については、その地域又は区域の追加被ばく線量が年間1mSy未満であることを基準として、これを空間線量率に換算し、1時間当たり0.23Sv未満の放射線量と定められている(汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34号)4条、5条)。
汚染状況重点調査地域の指定等の要件とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準であり、放射線障害防止法6条に基づく環境大臣の諮問に対する放射線審議会の答申(平成23年12月13日付け)に基づいて定められている。これは、公衆の被ばくに関する限度について、同法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものということができる。
環境大臣は、平成24年2月までに、福島県の41市町村(いわゆる浜通り及び中通りの全ての市町村と会津地方の一部の町村)の全域を除染特別地域又は汚染状況重点調査地域に指定したが、そのうち、平成29年3月末日までにその指定を解除したのは5町村にとどまる。この時点において、福島市、郡山市、いわき市及び南相馬市(同市は、本件事故時における上告人の居住地である。)を含む36市町村に及ぶ広範囲の地域は、依然として、環境大臣が、法令に基づき、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認める地域、又はその環境の汚染状態が上記環境省令で定める要件に適合しないと認め若しくはそのおそれが著しいと認める地域であったということができる。
平成29年3月までに、福島県内の各市町村において除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいたとしても、上記のような環境の汚染状態が続いている居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は、放射線障害防止法3条の定める基本方針に照らし、自らの受ける放射線量が障害を及ぼすおそれのないようにするという点で、法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。
もとより、区域外避難者は、自らの意思で元の居住地等に帰還することもできるが、避難を継続するか帰するかは、ひとえに個人の選択の問題である。本件事故により放出された放射性物質が広く拡散し、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されたとはいえない状況において(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)、法令に基づく合理的な根拠をもって避難の継続を選択する者について、区域内避難者と異なり、平成29年4月以降は、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、一律に、応急仮設住宅を使用する必要性を否定すべき理由はない。

(3)ア災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し、応急的に、必要な救助として行うものであるが、この「応急的」という観念は、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。取り分け、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視して、該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしる、特定非常災害特措法等の趣旨に反するというべきである。
なお、一般に、法令上「応急」という用語に係る措置は、その規定の趣旨を踏まえ必要に応じ長期に及ぶことが稀ではない。現に、区域内避難者については、平成29年4月以降も、応急仮設住宅を供与できる期間が延長され、福島県大熊町及び双葉町からの避難者については、現在も、応急仮設住宅の供与が続いている。

イ 阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較についても、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。

ウ 応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策については、セーフティネット契約等が平成31年3月31日までの2年間に限定され、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど、上記支援策によって、必ずしも、安定した住宅を確保できるとはいえない。これらも、区域外避難者について、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。(4) 被上告人知事が災害救助法2条により行う救助は、地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務であり(災害救助法17条)、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものである。国(内閣総理大臣)は、被上告人知事による応急仮設住宅の供与に関する事務について、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある(地方自治法245条の4第1項等)。
また、被上告人知事が、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置をとるに当たっては、内閣総理大臣に協議しその同意を得る必要があるから(災害救助法施行令3条2項)、その同意が得られない限り、上記措置をとることができない。そして、本件措置等において、平成29年3月末日までは、全ての避難者に係る上記期間の延長について上記同意が得られたが、同年4月以降は、上記期間の延長について上記同意を得ることが極めて困難となっていたことから、この点に関する協議を経て、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱い、区域内避難者に係る上記期間の延長について上記同意がされたものということができる。
  以上によれば、本件措置等は、国(内閣総理大臣)の関与と同意の下に被上告人知事が行ったものということができる。

(5) 以上のとおりであり、本件措置等において、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、平成29年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区域内避難者に係る上記期間を延長する一方で、区域外避難者に係る上記期間を延長しないことについては、同月以降は、区域外避難者について、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められるものでないことは明らかである。
避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置等は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な現疵を有するものであったといわざるを得ない。
そうすると、平成29年4月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本措置等は、社会通念上著しく妥当性をくものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである。

4 法令の解釈適用の誤り

被上告人知事は、本件措置等を踏まえ、東京都知事に対し、区域外避難者について、平成29年4月以降に係る救助の応援を要請せず、東京都知事は、同年3月末日をもって上告人に対する応急仮設住宅の供与を終了した。その際、被上告人知事及び東京都知事が、応急仮設住宅を使用する必要性に関し、広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことはうかがわれない。
国は、東京都知事による応急仮設住宅の供与に関する事務についても、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある上、本件建物は、東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けて、上告人に応急仮設住宅として供与するものであり、その使用許可と供与の期間は、同様に取り扱われるものであった。
以上によれば、上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま、平成29年3月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた被上告人知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものであるが、それらは、国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等が、社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことに起因するものというべきである。
このような事情の下において、上告人がその後本件建物に居住していることは、国との関係において、単なる不法占拠とみることはできず、上告人に関し、被災及び避難の状況、避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等の具体的な事情を総合的に考慮して、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使することが、正義・公平の理念に照らし容認できないときは、その行使は、権利の濫用として許されないというべきであり、被上告人が上記建物明渡請求権を代位行使することも、権利の番用として許されないものと解される。
しかるに、原審は、被上告人が占有権原を有しない占有者に対し明渡しを求める権利を行使し義務を果たすために、国の上告人に対する建物明渡請求権を代位行使することができるとしており、上告人に関する具体的な事情を総合的に考慮して、上記建物明渡請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて必要な検討をしていない。
そうすると、原審の判断には、災害救助法等の法令の解釈適用を誤った結果、必要な審理を尽くさなかった違法があり、これは、判決に悪響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中、上記建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分について事件を原裁判所に差し戻すのが相当である。

5 我が国においては、国及び原子力事業者が、原子力の利用に関する安全神話に陥り(原子力基本法2条3項参照)、原子力発電所についてチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年(昭和61年))と同様の事態になることは考え難いとして、原子力発電所の敷地外において中長期的な防護措置や土壌等の除染等の措置などが必要となるような過酷事故を想定していなかった(昭和55年6月原子力安全委員会「原子力施設等の防災対策について」、平成24年3月22日原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会防災指針ワーキンググループ「「原子力施設等の防災対策について」についての見直しに関する考え方について中間とりまとめ」等参照)。
このような状況において、本件事故に係る災害は、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害として政令で指定されたが、本件措置等は、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱うことについて合理的な根拠を欠き、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定の利益等を損なったものである。
原子力災害か否かに関わらず、著しく異常かつ激甚な非常災害により、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶ場合において、被災者の支援が、個別の事情を踏まえ、その必要性が継続する間確実に実施されるよう、その居住の安定に資するための措置について適切な仕組みの構築が望まれる。


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