小児甲状腺がん
2023/03/15 - 10:03

UNSCEAR報告書は放射性プルームを100分の1に過小評価〜甲状腺がん裁判で原告ら批判

原発事故後に甲状腺がんとなった患者らが東京電力を訴えている裁判で15日、原告の弁護団は、被告・東電が主張の根拠としているUNSCEAR(国連科学委員会)の報告書は、高濃度の放射性プルームを100分の1に過小評価しているとする専門家の意見書を提出した。

今回、提出したのは、前回に引き続き黒川眞一高加速器研究開発機構名誉教授の意見書。UNSCEAR報告書が被曝線量推計の根拠としているヨウ素131の大気中濃度と、福島市に設置された紅葉山のモニタリングポストの実測値と比較したところ、UNSCEARのデータは、福島県内で最も線量が高くなった2011月15日から16日にかけての放射性プルームをほとんど捉えていないと指摘。福島市を襲った放射性ヨウ素131の大気中濃度は、100分の1程度の過小評価されているとして、信頼に値しないデータであると批判した。

原告側が提出した証拠。UNSCEARが採用しているデータ(青い線)は、3月15日に到来した放射性プルームを反映していない。

また原告側は、UNSCEARが採用したモデルのもととなったデータの線量マップを時系列に並べた動画を証拠として提出。3月15日から16日にかけて、福島市の紅葉山には時の実測データでは、最大1平方メートルあたり2万ベクレル近い濃度のヨウ素131が到来していたにもかからわず、UNSCEARが採用したデータでは、放射性プルームが到来していないことになっていると厳しく批判した。

「政府の意向を考慮せず判断して」原告団長が陳述

今日は3月15日。
12年前のこの日、午後3時を過ぎたちょうど今頃の時間。
私の住む町に、高濃度の放射性プルームが襲ってきました。

昨年5月の第1回口頭弁論から、毎回のように行われてきた原告の意見陳述は、今回が最後となった。7人の原告の最後を締め括ったのは、原告団長の20代の女性。中3の時に原発事故にあい、放射能の影響で、運動部に入るのを断念したことや、大学に入って、がんが見つかった時のエピソードなど、途中、言葉を詰まらせながら、30分近い長い陳述書を読み上げた。

中でも、がんの告知を受けた直後、母親とともに車に乗り込み、「やっぱりがんだったね」と語った場面を読み上げた時は、声が震え、しばらく言葉が途切れた。その告知を受けた7年前から、裁判をしたいと考えていたという女性。きっかけは、医師から言われた「あなたのがんは、放射能とは因果関係がない」という一言だったという。

「直ちに健康影響はない」という原発事故後の枝野元官房長官の言葉。
「アンダーコントロール」というオリンピック招致時の安倍元首相の言葉。
がんになる前から、国や県に対して強い不信感があったので、決断に時間はかからなかった。

女性は昨年、岸田首相らが、元首相5人の書簡で「甲状腺がんで多くの子どもたちが苦しみ」と記載したことに反発したことも批判。「裁判所には、政府の意向を考慮することなく、起きた事実だけを捉えて判断してほしい」と長い陳述を結んだ。

次回は東電の反論〜原告のがんは「潜在がん」か?

「今回で、一つの節目を迎えた。」
井戸謙一弁護団長は弁、論後の記者会見でそう述べ、原告7人の意見陳述が終わったこと、法廷も大法廷となったこと、さらに「東電側の主張に対する反論が今日で完結した」ことの3点をあげた上で、東電側が原告の甲状腺がんについて、「潜在がん」であるかどうかを明確にしていないと指摘。次回の期日で、明確化するように求めた。また、被ばく線量について、2回にわたって主張をした只野靖弁護士は、東電が原告の甲状腺被曝線量を10ミリ以下だと主張していることに対し、「論破できたと思う」と胸を張った。次回の期日は6月14日(水)14時から東京地裁の103号法廷で予定されている。

地裁前で原告メッセージ

12年前、高濃度の放射性プルームが広がった3月15日に開かれた第5回口頭弁論。30年ぶりの寒さだった前回とは打って変わり、東京地裁前は20度を超える陽気となった。第1回口頭弁論以来の大法廷となり、傍聴券を求める列に並んだのは222人。恒例となったリレースピーチでは、初めて、原告からのメッセージもスピーカーで流された。

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